元・魔王の幹部の娘弟子:xx
*前回の記事の時系列から、十数年後の時系列に飛び立ちます。
前日譚における、凡そ全ての関係者が名前だけでも出てきたので、閑話休題というか。
web版に出てきた、ウィズの知り合いのリッチーの存在や、スピンオフで明らかにされたウィズの仲間の三角関係など。
それら全てを踏まえた上での、纏めて納得できる過去の話。
私のネタ管理ノートもご参照にした上で、この先の一節をご覧ください。
あと、少なくとも1名だけ重要な立場の既存キャラが出てくる予定ですが。
それはこの後、時系列を戻した時のお話で紹介いたします。
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ここは、人里離れたとある場所。
いや、元々はここも人里だったのだ。
機動要塞デストロイヤーに破壊された、とある街が滅びた跡地。
かの天災にも例えられる、壊滅災害を引き起こす賞金首が来た時は…
住人達はお墓も家も、捨てて逃げ。
破壊の化身が通り過ぎた後に、復興しようと有志が戻って来たものの…
外壁は崩れ。ライフラインは破壊され。農作物の倉庫も破壊され。
そして不幸なことに、雨が降ったのだ。
救いの水かと思いきや…必死に掻き集めた麦や米も水浸しになった。
いくら呪術が発達しているといってもだ。
整って管理された環境でない野外で、数多の腐敗菌の増殖を抑えられる訳でもなく。
更に言えば、近くの山も踏み荒らされたもんだから、長雨が続いた場合は、鉄砲水などの危険性も指摘された。
その街は、放棄せざるを得なかった。
その廃墟には、すこし突けば崩れ落ちそうな、エリス教の教会が現在でも残っているが。
当時の住人達は地下墓所から遺骨を収めた容器を運び出し。
そうして、それぞれが散らばって、色んな街へと移り住んだ。
ある者は王都へ。ある者は紅魔の里へ。ある者は水の都へ。
そしてある者は、駆け出しの街へ。
そうしてアクセルの街へ移り住み、冒険者となった、とある一組の男女の故郷だった街。
それがこの廃墟なのだ。
あれから、かなりの時間が経っており。
今は、外壁などを建てるなど、環境さえ整えれば。
人が住もうと思えば住める環境にはなってきた。
しかし。
此処には誰も近づかない。
アンデッドが住み着いているのだ。
それも、最上級のアンデッドが2体もだ。
幸いにも、人を襲うつもりは無いらしく。
むしろ、周囲に沸いた野犬や魔物を進んで狩ってくれており。
今はひっそりと停滞した時間が流れている。
人が住む土地は必要とされている。
そのため冒険者ギルドにも討伐の依頼は出されている。
そうして依頼を引き受けた冒険者達が稀に訪れるが。
彼らは少し話をした後に、涙を流しながら去って行く。
そう。塩漬けクエストの類なのだ。
最上級のアンデッドである彼らは理性が残っており。
そして彼らなりの望みを持っている。
その望みが叶えられるのならば浄化されても良いが。
それが出来ないのならば、放っておいてくれと。
そっとしてほしいと。静かに眠らせてほしいと。
その内に訪れる約束をしている待ち人が来れば、浄化されていなくなるだろうと。
そう、訪れる冒険者達にお願いしてくるのだ。
彼らの望みは並大抵の冒険者では叶えることは不可能で。
限られた条件をクリアした者にしか達成できない。
そんな無理難題なものだから。
一つの悲しい物語として語り継がれている。
いつかこの噂を聞きつけた、慈悲深いと噂される女神のような人物が来ないかと、誰しもが待ち望んでいたが…
そんな廃墟に、1人の若い女性が訪れた。
青き衣に身を包んだ、青き髪の聖職者。
彼女が歩みを進める先は、エリス教の教会跡だ。
最上級アンデッドの住処と成っていると噂の建物だ。
その入り口には、鎧を着込んだ人間が剣を前に突き立てながら、静かに立ち尽くしていた。
いや、人間ではない。
手足はあるし、胴体もある。しかし、首から上がすっぽり無いのだ。
首無しの騎士。デュラハンだ。
首から離れた、兜を被せた頭部を地面に置きながら。
真正面からやってきた、青髪を靡かせながら近づいてきた女性に声を掛けてきた。
「来たか…」
「ええ。来たわ。」
「待ち侘びた…待ち侘びたぞ!どれ程この時を、待ち望んだことか…」
「待たせてしまって御免なさいね。此処を探し当てるのに少し苦労しちゃって。」
「連絡先は、知らされているんじゃなかったのか?」
「私の方には教えてもらってなかったのよ。母さんや父さんに纏めて処分されちゃってて。偶々、噂話だけは聞いていたから、もしかしたらと思って尋ねて来たんだけど…どうやら、当たりだったようね。」
「…君は、誰だ?水の女神様ではないのか?」
「いいえ。違うわ。アクシズ教のアークプリーストであるのは間違いないけれど…私はディア。貴方達のリーダーだった母さんの…ウィズ母さんの、養女のディアよ。初めまして、ブラッドさん。」
「……帰れ。君に用はない。」
「私にはあるのよ。正確には貴方でなく、この教会の地下で眠る彼女にだけど。私のお願いを聞いてくれたのならば、貴方達の願いを叶える…達成できるかどうかはわからないけれど。少なくとも、それを試そうかとは思っているの。どうかしら?」
「一体、何の用事なんだ?」
「単純なことよ。少し、手伝ってほしいことがあるの。……そうそう、これを伝えないと。私のお母さん…ウィズ母さんは浄化されたわ。綺麗にさっぱり、跡形もなく。私が崇め、尊敬して愛している、水の女神様の手によってね。」
「…そうか。彼女は、逝ったか…」
「ええ。だから、お願いがあるの。彼女の元に、案内して頂戴。母さんの仲間だった…ロザリーさんに。貴方と母さんのために、少し遅れてリッチーとなった、元・アークプリーストに会わせて頂戴。」
「何をお願いするつもりだ」
「…少し、話がしたいの。昔の母さんがどんなだったのかとか、色々と知りたいの。お返しに、ここ最近の母さんの話をしてあげるわ。アクア様が此処に来てしまったら…その話もできなくなってしまうから。それを聞かなければ…死んでも死に切れないわ。強い未練を残した為に、アンデッドとなった貴方のようにね。」
「…」
「ウィズ母さんを、愛していたんでしょう?貴方達を救う為に、自らリッチーと成り果てた母さんを、それでも愛してくれていて…そして、1人で放って置けないと。激闘の果てに、命を落とした末に、強い未練を遺してアンデッドとなってしまった。」
「べべべ、別にウィズのことなんか好きじゃねーし!?今、俺が此処にいるのだって、幼馴染の為なんだし!?」
「ツンデレね。そんな貴方を、なんとか浄化しようと、母さんもアレコレ手を尽くしたみたいだけど…永い眠りに就いた、その幼馴染を独りにすることができないからと、貴方を側に置いたのね。死の呪いを受けた、母さんと貴方をなんとかしようとした、エリス教のアークプリースト。彼女が転生した、神官経由の究極の不死者、リッチー。彼女を浄化できる存在を…待ち侘びていたのね。」
「…」
「別に、おかしな事は考えていないわよ。アクア様も直にいらっしゃるでしょう。貴方達が浄化される前に、いろいろと聞きたいことがあるだけよ。本当よ?」
「まぁ、いいだろう…来なさい。彼女が…ロザリーが眠っているのは、この教会跡の地下墓所だ。」
そう言いながら、ブラッドと呼ばれたデュラハンは。地面に置かれた自らの首を脇に挟み。剣はそのまま置き去りにして、教会の内側へ移動した。
地下へと続く階段を、2人は足音をカツカツと響かせながら、降りて行く。
「しかし…ウィズに娘がいたとはな。弟子も取るつもりが無いようだから、少し心配してたんだ。」
「ええ。生憎と私はアークプリーストの道を選んだけれど…家族みんなで、冒険するのを夢見てたのよ。」
「そういえば父さんがいると言っていたな。ウィズは結婚したのか?」
「いいえ。私が便宜上、勝手に呼んでるだけよ。バニル父さんは、母さんと契約していて。その関係で、お店で一つ屋根の下で同居していたのよ。」
「ふぁっ!?」
その事実を突きつけると、目の前の首無し騎士は吹き出した。
「あいつ、魔王軍幹部として祓われたんじゃないのかよ…」
「一度は滅びたみたいだけど、その際に魔王との契約を解除して。それから新しい契約主である母さんの力を借りて、再び現世に舞い戻ったみたいなの。」
「無茶苦茶だな、あいつも…しかし、そうか。一つ屋根の下だったのか。羨ましい…」
「貴方達も、現役の頃はそうだったんじゃないかしら?」
「違わい。俺たちは宿屋暮らしでな。女性と男性は常に別の部屋だったんだよ。ダンジョン探索とかの際に、テントで並んで寝泊まりする時も、間にはいつもロザリーが邪魔していてな。…あいつとは幼馴染だったけど、故郷の頃から駆け出しの街に移った時、そして冒険者として駆け回っていた時も、兄妹みたいに一緒に育ったようなもんだった。恋愛対象としては見ることはできなかったんだ。まぁ、悪いことをしたとは思ってるけれど…それでも、こんなバカなことをしでかすようじゃあな。」
「母さんも、バカな事をしでかしたと思っているの?」
「似たようなもんだろ。たまたま、リッチーへの転生が上手くいって…魔王を脅迫してアレコレ要求を突きつけて、それが功を成して最終的に魔王がしばかれたけれど…その勝手な行動のために、俺やロザリーがどれだけ悩んだのか、解っていたのかな。」
「解っていたはずよ。だから、リッチーになったのよ。魔術師経由のリッチーならば、神聖属性への抵抗性も、そこまで高く無いはずだもの。」
「…そうだな。神官経由のリッチーなんて、本当にどうしようもない…それも、元・エリス教のアークプリーストだ。アクシズ教のアークプリーストでも祓えるかどうか…」
「そうね。水の女神の御本人である、アクア様くらいしか出来ないかもね。一応、母さんが浄化された時の魔法陣は覚えているから、今回の要件が終わったら試してみたいんだけど、いいかしら?」
「頼む。ウィズが逝ったと聞いて、正直にホッとしてるんだ。この世の未練なんか綺麗さっぱり消えてしまった。彼女も…ロザリーも、同じ気持ちだろう。今なら君でも浄化できるかもしれない。何とお礼を言ったらいいのか…」
「昔話を教えてくれるだけでいいわよ。私も、母さんのことを書き伝えたいの。その昔、魔王城に攻め込んで魔王を脅して契約を交わさせてテロ活動を抑え込み。その後も、世界を救った勇者に多大なる貢献をした偉大なる魔術師、氷の魔女のウィズ。リッチーになったのも…必要な事だったのよ。」
「…そうかもな。しかし、紅い瞳か…君は、紅魔族なのか?」
「いいえ。唯のアルビノよ。身体の何処にもバーコードは無い。髪も元々は白髪だらけで…プラチナブロンドの、銀髪ですらないわ。お陰様で、髪を青く染める手間も省けて、有難いくらいよ。」
「余程、信仰心が強いんだな。ウィズを…母親を祓った、女神様を恨んだりしていないのか?」
「いいえ。母さんの何よりの望みだったし。私が恨むのは筋違いね。」
「そうか。それを聞いて安心したよ。…着いたぞ。ここが、彼女が…ロザリーの眠る部屋だ。」
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