元・魔王の幹部の娘弟子06



▽▽side KAZUMA▽▽


 買い出しついでの爆裂散歩からウィズの魔道具店に戻ってきてみると、アクアがウィズに預けた赤子を囲む面子の中に、何故かゆんゆんが混ざっていた。

 我が第一夫人めぐみんの幼馴染を見かけたのは久々だった。彼女ゆんゆんも此方に気付いたようで、元気な様子で声を掛けてきた。


「お久しぶりですカズマさん!」


「おっす、ゆんゆん。久しぶり。今日はどうしたんだ?ウィズの娘の噂でも聞きつけたのか?」


「はい。その件についてはセシリーさんからお聞きしました。まぁ、その用事はあくまでついででして…元々はウィズさんのお店にも目的があって寄るつもりがあったんです。」


 そういや彼女ゆんゆんはウィズのお店の常連だった。


「最近になって開発された魔道具で、こちらの魔道具店で優先的に卸されるようになった新商品を発注しようと訪れたんです。」


「ウィズの店で卸す新商品?一体どんなものなんだ?」


「この、住居用うぉしゅれっと、という商品です。試しに使ってみたんですけど…すごく良いですね。便利です。」


「出来たのか!アレが出来たのか!マジかよ!すげえな!」


 以前にオレがバニルに売り渡した現代知識。其の中に、ウォシュレットの設計思想も含まれていた。バニルとウィズが、各々のツテを介してなんとか開発に漕ぎ着けたらしい。

 なんと素晴らしいのだろうか。メンテナンスが色々と大変だろうが、それでもこの世界でウォシュレットがあるのは素晴らしい。

 トイレ大国、ニッポン万歳。


 この異世界において紙はそこそこ普及しているが、柔らかい紙は非常に貴重である。そそて水に濡らすことで溶ける紙なんかは高級品だ。トイレットペーパーを買い込むことができるのは、金持ちである大貴族とか資産家くらいにしか出来ないことである。魔王を討伐する以前のオレもそういうことは出来ていた。


 しかし…魔王をしばいた直後には、そういった些細な贅沢の殆どは最早できなくなっていた。

 理由としては単純で、お金が殆ど無かったからだ。ウィズのお店で持て余されてた大量の最高級マナタイトを買い取った所為である。

 万が一のことも考えて、最低限の財産は残したが、それでも非常に高価な買い物だった。この為に、当時は決してトイレットペーパーのストックを幾つも積めるような状況ではなかった。


 流石に懐が寒すぎるので、ギルドや王家に相談したが…魔王討伐については賞金が懸けられていない、代わりにアイリスを嫁として娶る権利を与えられる、とのことだった。


 曰く。一人の娘を嫁に出す。人生に値段は付けれない。それが王族ともなれば尚更である。

 言っていることは正しいのだ。正しいのだが…


 およそ全ての勇者とは、ラスボスとの最終決戦のために超高級な装備品やら消耗品やらを買い揃え、或いは生きては戻れぬと覚悟を決めて、それまでに蓄えた私財を使い果たし、スカンピンになるものだと思うんだ。

 そうして生きて戻った世界を救った英雄に、報奨金が無いというのはかなり冷たい仕打ちじゃなかろうか。

 税金の件と良い、この世界の特権階級は意外とセコい。隣国エルロードの王様も税金逃れの目的で堂々と他国へ長期の旅行に出かけていたりする。ベルゼルグも財政が少々覚束ないという理由があるとは言うものの、魔王の討伐の報酬に賞金が無いのはかなりの問題があると思う。

 いや…言い換えるならば、英雄の血筋を取り込む為の巧妙な手口といえなくもない。つまり、魔王を倒した勇者であるオレに王族の一員となれというのだ。


 俺は別に、王族になりたいがために魔王をしばいたわけでは決して無い。そりゃあ、お城で暮していた時は毎日が楽しかった。

 ただし、それはあくまで客人として饗されていたからだ。王族の一員ともなれば、それなりの立場や責任というものがつきまとう。そういうのに縛られてしまうのは、真っ平ゴメンだ。

 コネ便りではないオレ自身がある程度の権力を持つことに魅力を感じないといえばウソになる。しかし、そういうのを手にするのには、今だに若いというか、分不相応であると言わざるを得ない。

 この異世界に転生してから其れ成りに時間が経ったとはいえ、今だに知らないことが沢山ある。そんな物知らずな人物に、大きな責任を任せておけるわけもない。宰相とか摂政とかが居るなら別だが…生憎と、王城内の人物からは、オレへの評価は大変ビミョウなものである。それもこれもある意味では自業自得ではあるのだが。


 そして他にも悩みのタネはある。

 子供だ。

 俺とアイリスの間に子供が出来たのならば…その子を第一皇位継承者である義兄の血筋と婚約関係を力づくにでも結ばせることになるだろう。

 王家や貴族に自由が制限されているのは充分に承知している。地位に伴った責任という奴だ。その事情が降りかかる者が全く赤の他人ともなれば、多少の手助けはするけれど、力及ばなかった場合には普通に諦めていただろう。

 しかし…自分の身内ともなれば話は別だ。やっぱり我が子には…出来れば自由恋愛の末で意中の相手と結ばれて欲しい。


 この考えが個人的な我儘なのはわかっている。アイリスも承知はしていたようだった。それでもどうにかならないものかと周囲に相談しまくった。ダクネスやその親父さん、そして意外なことにクレアまでもが俺の意見に同調して協力してくれた。


 まぁ、そんなこんなで話し合いをした結果。


 アイリスは、王家を捨てて、民草の立場に紛れることとなったのだ。一応、王位継承権などは残されたままにはなり。いつでも王家に復帰しても良い、という寛大な処置ではあるのだが。


 それでも、無理矢理に我が子の嫁ぎ先などを決められるということは無くなって、かなり多くの重責からは解放された状態となったのだ。


 そうしてアイリスを我らが街に迎え入れる際、色々なモノが付いてきた。結納金という名目と幾ばくかの財産と数人のメイドや執事達。そしてクレアまでも。とてもじゃないが、全員を我が屋敷に迎え入れることは出来なかった。

 召使達の住処も用意する必要も出てきたが…何故かアクセルの街の一等地に購入してあった豪邸がアイリスやめぐみんの管理下にあったので、そちらに移り住むことにした。


 俺たちが元々住んでいた屋敷は手放すことも考えたが…未だに貴族の少女の幽霊は留まっているということなので、取り敢えずアクアに管理を任せることにした。

 というか。以前にアイリスの城で滞在した際にアクア達の元に送った手紙の中には、かの屋敷と財産を好きに管理してくれという内容が綴られたものがあったのだ。


 あの時は、役所での手続きが行われる前だったから通報ができたのだが…アクアが拘束された際に、その手紙を突き出されたらヤバかった。あいつは筆跡鑑定も出来るのだ。そしてその手紙は間違いなく、自分が書いたものだった。


 そんな話はどうでも良い。


 そうして暫くはアクセルの街中で豪邸へ引越しながらみんなで暮したが…

 民草に紛れた元・王族と、彼女を嫁として与えられた魔王をしばいた勇者様。この異世界で新聞を発行しているマスコミ共が放っておくわけがなかったのだ。

 屋敷の前だけでなく、行く先々で詰め寄られ…四六時中、監視されるような環境だった。

 冒険者になってから人当たりが良くなったとはいえ、元々引き篭もりの一般人だった人物とっては、かなりストレスフルな生活だった。


 貴族の方々はこんなことになると予想はしていたのだろう。めぐみんが身籠っており、大切な時期だったのも確かだ。クレアやダクネスまでもが頑張って追い払っていたのだが…

 そういうプレッシャーに一番最初に折れてしまったのが、この俺だった。早々に音を上げて、マスコミ追っかけその他諸々への対処法がきちんと整っている王城に舞い戻ってしまった。

 こういうのも織り込み済みで、アイリスを民草として放ったのだろう。


 しかし。それでもオレ個人の我儘を変えるつもりはなかった。

 王城に再び滞在する際にも、元・王家である親戚の客人、という扱いにしてくれるようにと頼んだのだ。意外にもその願いはすんなりと聞き届けられ。かなり手厚くもてなしてもらった。


 そうして王城暮らしをしている間に、ダクネスには代理領主である親父さんを介して、アクセル地域において個人のプライバシーが護られるような条例を作ってもらうように頼んだのだ。その制定に関しては元・領主の義理の息子であるバルターも関与していたらしい。

 超スピードで凡その大筋は出来上がり、もう既に法案は議会の了承を得ていて告知も成されている。あとは執行を待つのみで、それがもう間もなくというからこの街にひょっこり戻ってきたのだ。


 そしたらアクアが子供を拾って、育児放棄した上でウィズに押し付けるなんていう、女神の風上にも置けないような事をしでかしたもんだから。慌ててウィズに例の子供を引き取るように進言したのだが…


▼▼元・魔王の幹部の娘弟子Tips▼▼

・簡単なあらすじ

1.およそ原作の原作の筋書き通りカズマは魔王を倒します。

2.魔王を倒した勇者であるカズマはアイリスと結婚できる権利を得ます。

3.アイリスは未成年なので婚約者の立場となります。王家の指輪も既に持っていた。

4.超絶に焦っためぐみんがカズマを押し倒して既成事実を作ります。ついでに孕んでしまった。

5.報告を受けたアイリスは王族特権を利用して法律を変えちゃいます。

 『結婚可能な年齢を13歳にする』『一夫多妻制の合法化』アクシズ教徒の相談役の影響です。

6.さらに王家を捨ててカズマの屋敷に押しかけることに。流石にめぐみんも折れた。

7.パパラッチがうっとーしいのでめぐみんが落ち着くまでに王城で客人として滞在する。

8.アクアは屋敷で留守番しながらアンナ嬢に対して溜めに溜めた冒険話を聞かせあげて成仏させようと努力する。

9.ダクネス達はアルカンレティアの条例を参考に迷惑防止条例を制定する。

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