第4話 5年後
5年後
「ふうっ、こんなもんかしらね」
「ハァハァ」
ミルさんの修行は相変わらずスパルタすぎる。でもそれも今日で終わりだ
「いよいよ、明日は魔法学園の入学試験ね。修行は全然終わらなかったけど試験くらいなら何とかなるでしょ」
厳しすぎるミルさんの意見に一言言おうとするがさっきまでの修行の疲労のせいでなかなか言葉が出てこない
「ハアハァ、あれからだいぶ強くなっただろ俺」
絞り出した俺の反論を聞いたミルさんは呆れたように
「ハァ〜、全然まだまだよ。ようやく紋章の力を操れるようになっただけじゃない。本当はそれだけじゃなくて他の系統の魔法も覚えてもらうつもりだったのに」
何とも無茶なことを言う人である
「そんなの無理に決まってるだろ。この紋章使いこなすのめちゃくちゃ難しいんだぞ」
「そんなの知ってるわよ。私の時もそうだったしでも何も知らなかった私と指導者がいるあんたじゃ違うでしょ」
「いや、そう言うことじゃないだろ」
ミルさんは時々本当に無茶なことを言うから困る。そんなやり取りをしていたのだけれど急にミルさんが真剣な目で
「まあ、完成しなかったものはしょうがないけど学園ではくれぐれも暴走だけはさせるんじゃないわよ」
「分かってるよ」
自分の紋章を見ながら頷く。5年前ミルさんに助けてもらってから始めた修行の最中も何回も紋章を暴走させてその度に周りが抉られているのを見て反省した
「一応、紋章に封をしてあるけどあくまで力を出しにくくするだけであんたが力を無理矢理出そうとしたら簡単に解けちゃうから気をつけなさいよ。今あんたが開けていいのは7段階の封のうち2つまでだからね」
厳しい口調で言い聞かせてくるミルさん。そんなに心配しなくてもいいのに
「大丈夫だよ、自分の力のことは分かってるから暴走はさせないよ」
力を操れるようになってからは2つ目までで暴走した事はない。3つ目も殆ど暴走しなくなってきている
「ならいいけど…」
それでもまだ心配なのかミルさんは納得していなさそうだった
「それよりも入学試験って王都でやるの?」
「そりゃそうでしょ、学園は王都にあるんだから」
何を聞いているんだこいつとでも言いたげな表情のミルさん。確かに俺は今まで学園にあんまり興味なかったから色々聴かなかったけど
「じゃあ王都にはミルさんの転移魔法で行くの?」
「当然よ。何、不満なの?」
不満はないけど…
「でも、王都に入るのに黒髪が2人一緒って目立つじゃないの?」
ミルさんの転移魔法は自分と一緒でなければ使えないのだ。ミルさん以外の人だけを飛ばそうとしても無理なのだそうだ
「そんな事心配する必要ないわよ。だって王都の中に転移するからね」
なんかすごい事言い始めたぞ
「いや、そんな事したら普通にマズイだろ」
俺の言葉など耳に入っていないのか続けてミルさんはまたトンデモナイことを言い放った
「大丈夫よ、だって国王に話はつけてあるから」
相変わらずこの人は常識が通用しないな
「そうですか…すごいっすね」
もうこれ以上なにを言えばいいのか分からなくなったので先に折れることにした
「納得したなら今日は早く休んで明日に備えなさい」
そう言うとミルさんは家に戻っていこうとしたので最後に一つ聞きたかったことを聞いてみた
「ミルさん、もし明日の試験合格したら俺は学園の寮に住むんですよね」
もしそうなるならばこのミルさんと2人の生活は終わってしまう。確かに修行はキツかったけどこの5年間はすごく楽しかったから正直寂しい。俺がそう質問するとミルさんは一瞬顔を寂しそうに歪めたように見えた。けど直ぐにいつも通りの表情で
「そりゃあ当然そうなるわね。まあ、王都の何処かに部屋を借りるって手もあるけどわざわざ此処から通う必要もないでしょ。それにあんたもいつ迄も此処で暮らしてないで少しは外の世界を見てきなさいよ」
あっさりとそう言うミルさんに、俺は自分でも驚いたがショックを受けていた。俺が打ちひしがれていると続けてミルさんが
「まあ、外の世界はあんたにとって辛い事も多いと思うから帰ってきたかったらいつでも帰ってきていいわよ。ほら、これ」
そう言ってミルさんが服のポケットから取り出したのは魔石が付けられたネックレスだった
「これは?」
このネックレスが一体なんだと言うのだろうか
「このネックレスの魔石に魔力を込めると私のネックレスの魔石が反応するようになってるのよ。帰ってきたくなったらこれに魔力を込めれば私が迎えに行ってあげるわ……………他にもあんたが危険な事になったら分かるようにもなってるけど」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、要するにこれでいつでも帰って来ることが出来ると言うらしい。あまり頻繁に帰るつもりは無いけど帰りたくなった時に帰れるというのはありがたい
「ありがとうミルさん。大事にするよ」
「そ、そう。」
俺は素直に感謝を伝えたのだが何故かミルさんは俺から顔を逸らしていた。素っ気ない返事をしたらそのままミルさんは家に入って行ってしまった。
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