第38話 進路とエルフの街
次の休日。私とレオンは馬車に揺られて街に向かっていた。街門を潜るとガタガタと石畳の上を走る。今日もキリングドールの城下町は賑やかだった。目的地はレオンの家。いつぞや話した私の私塾として使えるかどうかの下見である。私たちを乗せた馬車は、王城よりデカいんじゃないかと思う家に滑り込んだ。
「よう、元気そうで何よりじゃ」
玄関先で迎えてくれたのは、なんとレオンのお父様だった。なんともポップなオジサマである。
「はい、お陰様で……」
挨拶を返し、私は馬車から飛ぶように降りた。
「レオンから話しを聞いておる。この家で私塾を開きたいとな?」
レオンが遅れて馬車から降りてくるのを片目で確認しつつ、私はお父様に答えた。
「は、はい」
「うむ、けしからん。構わぬぞ」
……どっちやねん!! という突っ込みは野暮ね。
「1階は使っておらんからな。好きに改造するがよい」
レオンのお父様はそう言って家の中に入っていった。
「ふぅ、やっと追いついた」
レオンがやっと横に並んだ。
「何やってんの……」
私は白い目でレオンに言う。
「ほら、あんまり馬車にのらないから、降りるとき苦労しちゃって……。
……はぁ。
「まあ、いいわ。1階は開いてるから好きに改造していいって」
レオンがうなずいた。
「うん1階は不要品置き場になってるよ。空き部屋にしておくのはもったいないからって」
レオンがうなずきながら答える。
「分かった。じゃあ捨てちゃていいのね」
そんな会話をしながらレオン宅に入ると、いきなり巨大なシャンデリア付きホールが現れた。定番のパターンだが、実体験するとマジでビビる。
「部屋はこっちだよ」
レオンに案内されるまま私は1階を回る。そこは真ん中の階段を中心に円形に部屋が並んでいるようで、確かにこれなら魔法実習室と座学の教室が作れる。部屋の中を見ようとしたのだが、ホコリが凄いからやめた方が良いと忠告された。
「さて、本気出しますかね……」
私は虚空に「穴」を開け、中から杖を取りだした。これは式典用のヘボ杖ではなくミスリル製の「本物の杖」。魔力増幅効果があり、滅多に使わないが今回はこれが必要になる。「全ての物よ。我が意に従え!!」
私は長い呪文の最後にそう叫び、杖をかざした。すると、杖から強烈な光が放たれ1階の形が変わっていく。開けちゃいけないと言われた部屋が見る間に座学の教室へと変わり、階段を挟んで反対側は魔法実習室へと変化した。秘技「空間干渉魔法」。
「とまあ、こんなところかな……」
私は杖を「穴」にしまい。1つ息をついた。
「あれ、レオン。どうしたの?」
完全に固まってしまったレオンに、私は声を掛けた。
「ぼ、僕、とんでもない魔法使いを彼女にしちゃったのかも……」
……こら、本音が口から出てるぞ。
「これくらい出来て当然。あなたも上級課程に上がれたらやることになるわ」
レオンはため息をついた。
「僕、進級出来ないかも……」
「落第したら……。分かってるわよね?」
ニヤリと笑みを浮かべてやると、レオンは外に向かって駆け出した。
「すぐに帰って勉強しないと。イライザ早く!!」
私が乗ると同時に、馬車はもの凄い勢いで走り始めた。
……レオンはいずれ知るだろう、「空間干渉魔法」なんて高度かつ面倒なもの、私くらいしか使わないということを。
「へぇ、よくぞここまで……」
何かに火が付いたらしく、別人のように猛勉強を開始したレオンは遊んでくれなくなった。
そこで、暇つぶしがてらエルフの村に立ち寄ってみたら……そこは正しく街だった。
あちこちに商店が並び、非常に活気がある。見るとエルフ以外の人間も多くいるので、どうやら上手く順応出来たようだ。
「どうじゃ。我々の力も侮れないじゃろ?」
いつの間にか、エルフの長老が私の横に並んでいた。
「そうじゃ、1つ確認を忘れておったのじゃが、わしらは石の家は好まんので、近くの森から材木を調達したのだが、問題はあたかの?」
長老に言われて確認すると、確かに全ての家が木で出来ている。私は「飛行」の魔法で宙に浮かぶと、「鍛錬の森」がごっそりなくなっている。
……あーあ。
「問題あるって言えばありますが、ないっていえばないので大丈夫です」
私は頭を抱えたくなりながら地上に下り、長老にそう言った。
「大丈夫なら良かった。まだ街を拡張予定だからの、もっと木材が必要になるのだ」
……「森の民」とまで言われるエルフが森林伐採。けしからん。もっとやれ……あっ、うつった。
「では、ゆっくりしていってくれ。わしはまだ仕事があるのでな」
長老はそう言って、どこかに行ってしまった。私はもう言うことがない。
今後の末永い発展をお祈りします……。
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