第37話 エルフの街作り
「やっぱりそうきたか……」
王家からの手紙を読み、私はため息を着いた。手紙に書かれていた事はエルフの村を作る事は問題ない。ただし、税金を支払うようにとの事だった。
……税金か。理解してもらえるかな。
ちなみに、税金はお金である必要はない。それなりの物を収めれば問題ない。
「言いにくいけど、行くしかないか……」
私は寮の自室から出ると、中庭に向かった。今は午前の授業ラッシュのはずだ。テストも近いので、さすがのレオンもベンチにはいない。まあ、私が作ったあのテキストがあれば、座学は問題ないはずだ。後は実技だがこれはレオンに頑張って貰うしかない。
「さてと……」
私は「飛行」の魔法で宙に浮かんだ。そのままゆっくり飛び、今やエルフキャンプとなっている外庭に降り立った。
「よう、イライザ。今日は浮かない顔をしているけど大丈夫か?」
すっかり馴染みになってしまったエルフの男性が声を掛けてきた。全くどいつもこいつもイケメンだから困る。
「大丈夫ですよ。それより、長老はいつものテント?」
私が尋ねると男性はうなずいた。
「ああ、いつもの場所だよ」
男性はテントの1つを指差した。
「ありがとう」
男性に礼を言うと、私はテント村の奥に行った。
「こんにちは~」
私はテント内に入った。いつも通り長老が迎えてくれた。
「イライザ殿、よくいらっしゃった。まま、その辺りに腰を下ろしてくれ」
私はテント内に転がっていた丸椅子に腰を下ろす。
「その表情から察するに、なにかあったようじゃの」
長老の目は誤魔化せない。私はありのまま話した。村作りの許可が下りたのはいいが、課税されるということ。こう言ってはなんだが、エルフに税金が払えるとは思えないのだが……。
「気に病む事はない。わしとて人間のルールは分かっておる。収める税金はこれでいいかの?」
長老がボウルのような容器を取り出した。
「こ、これは……!?」
私は驚いた。容器一杯入っていたのは一見するとただの木の実だが、実はプラディアという魔法薬の材料だ。これが希少でバカ高いのだ。このボウル一杯で、恐らく国ごと買える。前にも言ったが、魔法薬はお金が掛かるのだ。
「想定される村の規模から考えて、これは多すぎますよ。そこそこにしておいて下さいね」
私に言える事はそれだけだった。
「無論心得ておる。さて、問題が解決したところで、さっそく村の建設に取りかかればな」
長老は椅子から立ち上がった。そして、傍らあった巻き貝の笛を吹いた。すると、テント村からエルフたちがワラワラと集まってくる。人口密集度はかなりのものだ。
「皆喜べ。村を作る許可が出た。これもひとえにイライザ殿のお陰だ。感謝せよ!!」
長老が良く通る声でみんなに言った。地鳴りのような歓声が上がる。
……レオン忘れられているし。可哀想な子。
「さあ、取りかかろうではないか。皆それぞれの仕事にかかれぇい!!」
おうという大迫力の声が掛かり、エルフたちはさっそく仕事に掛かり始めた。
「時に、村の場所はどこがいいかの?」
長老が私に聞いた。それって、最初に聞く事じゃない?
「そうですね。森があった方がいいですか?」
私の問いに長老は首を横に振った。
「人間界に出ると決めた時から、ジメジメした森には戻らんときめておる。人間から好奇もめで見られることも覚悟の上じゃ」
長老の言葉を聞き、私はある地点を示した。
「ここなら大丈夫です。時々魔物も出ますが比較的安全です」
それは外庭の隣だった。ここなら安全だし、なによりエルフが近くにいるのは心強い。
「よし分かった。さっそく皆に指示を」
長老が言うと、長老の側に控えていたエルフが素早くテントから出ていった。
「実はな、もう村の設計図は出来ておってな、後は許可待ちだったのだよ」
長老が楽しそうに笑った
せっかちというかなんというか……。話は早いけど。
「ある程度形になったら、イライザ殿にお見せしよう。なに、昼夜突貫工事をすれば3日も掛からんじゃろう」
長老は楽しそうに笑った。人口300人といったら、もはや村ではなく街である。それをたった3日で……恐るべしエルフ。
「で、では、私はこれで…」
私の心配事もスッキリしたし、街作りもスタートしたようなので、今の所用件はない。私は長老に一礼すると、テントを出て中庭方面に歩く。「飛行」の魔法を使わない理由は、発動時の結界魔法展開で簡素なテントを吹き飛ばしてしまうからだ。テント村を抜けたところで「飛行」の魔法で中庭に降りたつ。
「あっ、さっそくエルフのところにいっていたんだ」
レオンがテキスト片手に、いつものベンチに座っていた。
「どうよそれ。中級の修了検定から卒業試験まで使えるようにしたんだけど……」
レオンは小さくうなずいた。
「なるほど、それで分からない事も書いてあったんだ」
なにやら納得した様子でレオンはうなずいた。
「まぁね。学校の図書室で調べればすぐ分かる事なんだけど……」
レオンが小さく笑った。
「もちろん調べたよ。またパンチ食らいたくないし。でも、どうしても分からないんだよねぇ……」
レオンがテキストから目を離さずに言った。
「あれ、どこか分からない事あった?」
誰でも分かるよう懇切丁寧に書いたつもりなのだが……。
「うん、女心」
瞬間、私は無言でパンチを放っていた。それを片手で防ぐレオン。
……ったくもう。
「そんな簡単に分かってたまるか。バカヤロー!!」
私は思いきり叫んだ。
「あはは、冗談。真面目に言うと、テキストのこの部分の部分が……」
……くそう、おちょくりやがって!!
「イライザ、聞いてる?」
レオンが問いかけてきた。
「聞いてるわよ。この部分は……」
私はレオンの質問に答えていく。やはり、こっそり混ぜた上級課程部分の内容で引っかかったらしい。図書室は初級課程から上級課程向けに別れているので、この辺りの内容は中級課程剥きでは出てこない。
「……やっぱりイライザって教え方上手いよ。卒業して先生になっても大丈夫だね」
レオンが楽しそうにそういう。しかし、私は悩んでいた。
「卒業したらどうするか、今悩んでいるのよね。いちおうこの学校の先生に内定しているけど、そうなるとあなたとは教師と学生っていう関係になるわけで恋愛はまずいでしょ?」
レオンは難しそうな表情になった。
「そっか、それ忘れていたよ。確かに先生と学生じゃまずいよね。大人の本なら……ぶっ!?」」
私のパンチがレオンの顔面にめり込んだ。
……ふっ、油断したな。この思春期真っ盛り野郎。
「だから、先生を蹴って私塾を開くか、研究課程に進もうか悩んでいるの。研究課程は6年だから、あなたの方が先に卒業しちゃうけど……」
レオンが困ったような表情に変わった。
「僕としては、この学校を卒業すると同時に結婚したいな。今でも待ちきれないもん」
レオンが困った事を言う。私の悩みは深まった。
「あっ、そうだ。僕の家で私塾やりなよ。空き部屋はいくつもあるし、それを潰せば十分場所を取れるよ。今度下見に行こう!!」
レオンが思わぬ変化球を放ってきた。どんだけデカいんだ。レオンの家は。
「わかった。今度行きましょう」
そう言って、私は日課のキスをしたのだった。
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