第33話 婚約の余波
これは全く予想外だったのだが、翌日からにわかに忙しくなってしまった。なにせ、平和な学校の中である。レオンが友達関係に「私と婚約した」といいふらした結果、瞬く間に学校中がざわつく自体に発展してっしまったのだ。
「あのバカ……」
自分で言ってしまうと嫌みになってしまうのだが、私は中等課程を飛び級して上級課程に入り、なおかつ瞬く間に卒業必須単位を取得したのだが、これだけでも目立つ存在である。そして、私は疎いのだが、レオンの家はこの国でも1、2を争う大物貴族らしい。そんな2人が婚約したとなれば当然大騒ぎになる。
「あー、疲れた……」
この学校にも様々な部活があり、その中の1つに新聞部があるのだが、これが本当にしつこい。毎日押しかけては同じような質問をしてくる。いい加減たまりかねて、私は空に逃げた。「飛行」の魔法は高等魔法になるので習得している者は少ない。
「やっと、静かになったわね。ったく、レオンも普通言うかね。こんなこと。まだ婚約だよ婚約。もし別れたらどうする気なんだか」
私は身をかがめ、高速飛行に移った。お約束の「探査」の魔法にはなにも映っていない。あっという間に大森林地帯を飛び抜け、モハーベ砂漠上空に差し掛かった。
このまま飛んでいくと国境を越えてしまう。隣国のファルサ王国とは実のところあまり仲が良くない。国境線を越えてしまうのはよくないだろう。すると、「探査」の魔法が何かを捉えた。数は2つ。ファルサ王国側から猛スピードで赤い点が迫ってくる。
「なに?」
私は慌てて詳細探査に切り替えた。すると、それは葉巻のような胴体に翼がついた、戦闘用に作られた飛行魔道機だった。
「なんで、まだ国境線越えていない……あっ」
越えていた、バッチリと。
「なんでもう!!」
ぼやきながらも進路を急速転換。慌ててキリングドール王国領内を目指す。しかし、相手も速い。徐々にだが距離が詰まっている。ここで、攻撃魔法など撃ってはいけない。戦争になってしまうからだ。
「ったく、レオンのバカヤロー!!」
全く関係ないが、とりあえず叫んでみる。私は飛行速度を限界まで上げた。ようやく相手の飛行魔道機との距離が離れて行く。しかし、相手は追跡をやめない。
「しつっこいわね。女の子に嫌われるよ。そういうの……」
わたしは何とかキリングドール領空に戻ったが、それでも相手の飛行魔道機は追いかけてくる。本気でしつこい!!
「ここで攻撃されたら正当防衛。受けて立つ!!」
私は飛行速度を抑え、上空で仁王立ちした。キリングドール領空内で私を攻撃しようものなら、いかな私が先に領空侵犯したとはいえこちらの方に儀がある。生身で飛行魔道機に立ち向かうなんて、過去に何人やっただろうか?
「さぁ、こい!!」
見る間に接近してきた飛行魔道機は、急激に速度を下げ2機とも揃っていきなり救難信号を示す赤い光球を上げた。
……えっ?
『こちらファルサ王国第123飛行隊所属のリッツ大尉とモリス中尉だ。聞こえたら返事して欲しい』
どうやら「通信」の機能がついているようで、私の頭の中にそんな声が聞こえた。
「こちらキリングドール魔法学校所属イライザ。良く聞こえるわよ」
聞こえるということは、この波長で返せば相手にも聞こえるはずだ。私は素直に返事した。
『イライザか、いい名だ。貴国に亡命を求めたい。まずは着陸出来る場所の確保を願いたい。あと30分で燃料が切れる』
飛行魔道機には離着陸のスペースが必要。そのくらいは知っている。
「どのくらいのスペース?」
あまり詳しくないので、わたしは聞き返した。
『直線で2000メートルもあれば余裕。幅は30メートルくらいかな』
思い当たるところは1つだった。
「こちらイライザ。キリングドール聞こえる?」
私は波長を調整し、今度は学校に「通信」した。
『こちらキリングドール。イライザどうした?』
通信室から返事がくる。
「今外庭使ってる?使っていないならキープね」
私は相手にそう言った。
『予定表では今使っているクラスはない。どうした?」
わけが分からない様子で相手が答えた。
「ファルサ王国からのお客様よ。飛行魔道機が2機来るからスペース空けておいて!!」
『何だって!?』
慌てふためく学校の通信室は無視して、私は波長を飛行魔道機に合わせた。
「着陸スペースは確保したわ。誘導するからついてきて」
『了解、イライザ。飛行魔道機は燃料が切れると爆発するかもしれない。気をつけてくれ』
……おいおい。マジですか。
心の中でつぶやきつつ、私は2機をキリングドール王国魔法学校へと誘導する。やがて見えて来た外庭には多くの人たちが集まってきていた。校長はもちろん、どっかの役所の人……数えればキリがない。
「あのスペースなんだけど大丈夫?」
私が尋ねるとすぐに答えが返ってきた。
『ああ、問題ない。助かったよ』
私は先回りして外庭に立つ。やや遅れて、巨大な飛行魔道機が2機降りてきた。車輪が地面についた瞬間にもうもうと砂煙が上がり、キーンという魔道機特有の甲高い音が辺りを支配する。
機体がゆっくり止まった瞬間、待機していた人たちが飛行魔道機を取り囲む。これで私の役目は終わりだ。私はアクビをしながら中庭に行った。魔力を使いすぎると眠くなるのだ。いつものベンチにはレオンがいた。
「お疲れさま。また大活躍だったみたいだね」
レオンがニコニコ笑顔で校内新聞の号外を見せた。そこには、私が亡命機2機を誘導した事。パイロットが私に凄く感謝している事などが書かれていた。
「いいことだったのかな。何か嫌な予感がするのよね……」
私はベンチの背もたれに背中を預けた。この嫌な予感が、まさか明日訪れるとも知れずに……。
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