第31話 マジで万屋イライザ

 「へっぽこ『元』役人事件」も落ち着き。私たちは平静を取り戻した。いつも通りレオンは張りぼて相手に訓練を重ねているが、今度は私の忠告通り格闘術だ。やはり剣術より様になっている。

「ほら、やっぱり私が言った通りでしょ。格闘が出来る魔法使いって少ないから、凄く重宝されるわよ」

 しかし、私の言葉は集中モードのレオンには届いていないようだ。ただ一心に張りぼてを殴って蹴って……よくもまあ、飽きずにやるものだ。傍らでサンドイッチを食べている私としては、まあ、暇である。少しは恋愛的な事をやりたいものだ……ってね。

「おーい、レオン。そろそろ昼休み終わるわよ」

 私が頃合いを見て声を掛けると、レオンはこちらを見た。

「えっ、もうそんな時間!?」

 私が放ったタオルを受け取り、レオンは慌てた様子でこちらにやってきた。

「ほら、昼ご飯」

 私は買っておいてパンを差し出した。

「ありがとう。急がないと……」

 レオンは猛スピードでパンを片付けた。よく水なしで喉に詰まらせず食べたわね。その時、昼休み終了の鐘がなった。

「ほれ、急ぐ!!」

 私はレオンのそっと背を押した。

「うん、放課後に中庭で」

 ……おや、いつもは裏庭なので珍しい。

「分かった。放課後に中庭ね」

 レオンに手を上げながら答え、その後ろ姿を見送った。

「さて、どうするかな……」

 レオンがいなくなると、途端にやることがなくなる。レオンと知り合う前は、それなりに暇つぶし方法があったのだが、なぜか今はやる気が起きない。やはり、レオンの存在が私を狂わせる。まいったなぁ。マインド・コントロールは魔法使いの基本なのに。

「うーん、編み物でもするか……」

 こう見えて、私は結構細かい作業が好きなのだ。編み物なら時間を消費するには最適だ

 ……なに、微妙に年寄りっぽいって? やかましい!!

「しかしまあ、ここのところバタバタしすぎだったわねぇ。さすがにこれ以上は勘弁だわ」 順調毛糸を編みながら、私は誰ともなくつぶやいた。本当に、このところ戦い過ぎだ。それも、わりと命がけで。たまには休ませて欲しい。

「さて、出来た!!」

 元々編みかけだったので、大した時間はかからなかった。完成したのはマフラー。比較的簡単なので、よほど凝った模様でも編まなければすぐに出来てしまうのだ

「もう一本編んでレオンとペアにしてみたら……って、笑い者になるだけね」

 私は完成したマフラーをカゴにしまった。キリングドールはまだ暑い、マフラーを着用するには早すぎる。

「さてと、どうするかな……」

 編み物を終えるとまた暇になった。また別のものを作ってもいいのだが、だんだん眠くなって来てしまった。

 そんな中、玄関方面から事務のお姉さんが駆けて来るのがみえた。

「イライザさん、校長先生からです。『鍛錬の森』でまた魔物が異常発生しているとの事です。その掃討と原因を究明して欲しいとの事。今回は課外行動ということで、報酬が ……」

 私は事務のお姉さんの言葉を手で遮った。

「報酬はいってみてから。多分ちゃちゃっと終わるから、1つ貸しってことで引き受けるわ」

 私は「飛行」の魔術で空に舞い上がる。全く校長も無茶をいう。まあ、暇だからいいけど……。私は「探査」の魔法を放った。

「えーっと、こりゃまた大量ね……」

 森の上空に差し掛かった私は「探査」の魔法で虚空に開いた「窓」を確認。大量の真っ赤な点が浮かび上がった。

「さて、まずは魔物を潰しますか……」

 私は「探査」の精度を上げるべく超低空飛行に入った。なにも、降りていちいち戦う事はない。「窓」の赤い点が一斉に紫に変わった。これは私が魔法のロックオンをした事を示す。そして……

「アイシクル・ランスPAC2!!」

 森なので水系魔法しか使えない。私はおなじみアイシクル・ランスの改良版を放った。虚空に浮かんだ氷の矢の数は128本。それが「探査」の魔法と連携して、ロックオンした魔物たちに向かって一斉に飛んでいく。程なく射程圏内だった赤い点は全て消えた。

「さぁ。次行くよ!!」

 同じ要領で私は森の魔物を殲滅した。普通ならここまでやらないが……。

「原因究明っていってもねぇ……」

 そう、私にはもう1つ任務がある。魔物が異常発生した根源を探る事。だから、邪魔な魔物を排除したのだ。

「おっ、来たか……」

 森上空をゆっくり旋回しながら飛んでると、「探査」の魔法が新しい魔物の出現を検知した。その地点を記録してから、私は現れたばかりの魔物を倒す。そして、その地点へと飛び降りた。森は一面氷の海だった。透けて魔物が見えていなければ、さぞかし幻想的な光景だっただろう。私はその中を魔物発生源へと急ぐ。

「あれ、これって……」

 そこには1つのバケツが置いてあった。見た目はよくあるそれだが、蓋付きのいかにも怪しい雰囲気をかもしだしている。それは、魔道機の1つ。「ホイマーのバケツ」だった。私は即座に半開きだったバケツの蓋を閉じた。これでよし。任務完了だ。私はバケツを片手に空に上がる。このホイマーのバケツ。なにがしたいのかよく分からないが、魔物を大量発生させる働きをする。これが原因だ。私は念のため、森の上空を旋回してみたが、特に異常はなかった。そして、私は学校に戻る。中庭で待っていたのは、校長と首根っこひっ捕まえられている教師だった。

「完了しました。森の中にこれが……」

 私は校長にバケツを掲げて見せた。

「お疲れじゃな。やはり魔法機か。なぁ、アンドリュー先生」

 校長は暴れている先生に声をかけた。

「知らなかったんだ。あんなに魔物が出てくるなんて。知らなかったんだ!!」

 アンドリュー先生は暴れながら逃げようとするが、校長は離さない。気持ちは分かるが、逃げたところで罰が増えるだけなのに。

「アンドリュー先生。魔道機の無断使用と放置。それなりの罰は覚悟してもらいますぞ」

 校長はそう言って、アンドリュー先生を離した。途端に逃げていく。だから、意味ないのに……。

「さて、イライザ君。これは学校からの依頼であり、なんの報償もなしというわけけにはいかない。そこで、二等銀賞を与えるものとする」

 校長はわたしの制服に銀色に輝く記章を付けた。

「これでよし。もうそろそろ授業も終わるじゃろう。あとはいちゃこらすればいい」

 ……相手が校長じゃなかったら、地平の果てまで飛ばしているところだ。

「ではまたな。なにかあったら、また頼むぞ」

 校長は笑いながら去っていった。ちなみに、レオンと私の仲はもう学校中で知られているところだ。まったくもって迷惑……

「でもないから困るのよね。やれやれ……」

 私は大きく伸びをしたのだった。私は大きく伸びをしたのだった。約束の放課後まではまだ時間がある。私はどうしたもんだかと思案を巡らせたのだった。

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