閑話:正月特別(今さら)

「レオン、どこ行くの?」

 少し前を歩くレオンに手を引かれながら、私は森の中を突き進んでいた。時間は夜。ちゃっかり外出届けは出しておいたが、基本的に夜間は認められない。

「いいから、いいから」

 なにがいいのか分からないが、とにかくレオンは進み続ける。道はいつしか山道になっていた。

「ちょっと、いい加減行き先を教えなさいよ。サンダルで来ちゃったじゃない」

 まさかこんな場所に来るとは思っていたので、おおよそ登山には不向きな格好で来てしまった。しかし、レオンは何も言わない。ただひたすら進むだけだ。こうなったら私も黙ってついていくしかない。手を振り解こうと思えば出来るのだが、なぜかそれをやってはならない気がした。こうして苦労して歩くことしばし、私たちは山頂に到着した。空が薄紫色に染まっている。

「いい加減ここがどこだか教えなさいよ。回答によってはぶっ飛ばす!!」

 私はそう言ってグーパンチの準備をした。

「すぐ分かるよ。もう少し待ってね」

 レオンの答えはそれだけだった……。殴ってみるか。やっぱり。その間にも、空の色が徐々に青に変わっていく。そして……。遠くの山並みの上から徐々に太陽が出現した。

「イライザ、こっち来て」

 レオンに言われるまま、私は体を近づけた。そして……。深くて長いキスをしたのだった。

「ここはね。知る人ぞ知る初日の出ポイントでね。日の出と同時にキスすると永遠の恋になるんだって」

 へーって、ちょっと待て!?

「も、もう新年なの。一昨日くらいに年が変わったと思っていたのに!?」

 その瞬間、レオンが吹き出した。

「あはは、イライザってさしっかりしてるくせに、たまにおおボケかましてくれるんだよね。今年は王歴346年。もう変わって5時間くらいかな……」

 ……くっそ、迂闊だった。レオンに笑われるなんて!!

「で、なによ。永遠の恋ってさ。そんな迷信を信じるの?」

 とりあえず、何とか切り返しをはかる私。

「信じるよ。僕はイライザの事が好き。でもイライザの心は見えない。だから、こうしてお願いするんだ」

 レオンは笑った。

 ……こ、コイツ。小っ恥ずかしい事を平然と。

「さて、戻ろうか。寮のオバチャンに怒られないうちに」

 そして、私とレオンは下山したのだった。

 ……まあ、悪くないか。こういうのも。

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