第27話 救助隊出動!!

「あーあ、暇だなぁ……」

 私は1人でサンドイッチを食べながら、中庭のベンチでつぶやいた。レオンは反省文100枚に(多分)泣きながら掛かり切りだし、アリスも今頃は修行中だろう。

「私って友達少ないな。今さらだけど」

 私は思わず苦笑してしまった。勉強もいいが仲間づくりも大事だ。今になって思う。まあ、上級課程に上がったばかりの私は、本気で鼻持ちならないガキンチョだったろうし、友達がいなくても無理はない。

「さて、行くか」

 お昼を済ませた私は、タラタラ歩きながら寮の部屋に向かう。特にこれといって面白い事もなく部屋に到着した。

「さてと、たまには整理でもするか……」

 私は虚空に「穴」を開けた。中から色々なものを取り出して部屋に並べていく。これは普段使わない道具だったりものだったり……まあ、ガラクタといってもいいものがほとんどだ。

「あっ、儀礼服がこんなところにあった。クローゼットにないと思っていたのよね」

 白い立派な服がくしゃくしゃになって「穴」から出てきた。これは儀礼の時に着る正装だ。滅多に着ないがないと困るものである。私は儀礼服に「アイロン」の魔法を唱えた。クシャクシャだった儀礼服があっという間にピシッとした。普段の制服はズボンだが、儀礼服はスカートだ。だから、着るとスースーしてなんだか違和感を覚えるのが常である。

「これはちゃんとしまっておかないとね」

 私はクローゼットに儀礼服をしまった。これで思い出したが、もう1つ必要なものがあった。しかし、「穴」から出てくるのはガラクタばかり。はて、ここにしまってなかったかな……。しばらくして、私はやっと目的のものを引っ張り出した。

「やっと出てきた。錆び錆びね……」

 それは私の身の丈より少し長い杖だった。儀礼用なので鉄製でやたら重く、打撃武器として使うなら申し分なさそうだが、そんなことしたら思いきり怒られる。

「さて、これもメンテナンスしますか……」

 錆びだらけで触るのも嫌な杖だが、私は魔法を放った。すると、見る間に錆が落ちていき、杖は鈍色に光り始めた。これでよし。私は仕上げに「状態保存」の魔法を掛けておいた。これで1年くらいは大丈夫だ。こうして絶対に必要なものの手入れを終え、私は再びガラクタの整理を始めた。そのほとんどが魔道機と呼ばれる魔力で動く機械だ。レオンの治療の時にもちらっと出てきたが、例え魔法を知らなくても魔力を注いでやれば様々な動きをするのでこの国ではポピュラーなものだ。

「さーて……」

 整理するというのは捨てると言っているのとほぼ同じだが、私はこれが出来ない女なのである。大量の煙を出す魔道機なんてなんで買ったんだろう……。おおよそ役に立ちそうもないが、いつか使うかもしれないし……。始終こんな感じだ。魔力の許す限り「穴」には容量制限がないので、つい溜まってしまうのだ。それでもなんとか捨てるものと捨てないものをわけた。必要なものに別けたガラクタの方が圧倒的に多いが、それは言わない約束。捨てたという事が重要なのだ。

「もしレオンと私が結婚したらどうなるんだろう?」

 私は想像してちょっと笑ってしまった。お父様への手紙を忘れなかったり、ちょいちょいマメな性格が見え隠れしているので喧嘩が絶えないかも。それはそれで、面白いけどね。平凡な夫婦生活なんてつまらない。

「って、何を想像してるのよ!!」

 私は思わず突っ込みを入れてしまった。レオンとの婚約は保留のまま。ホントは男性側が持っているべき婚約指輪の片割れは私の元にある。あのときは勢いで行動してしまったが、これでいいのかと冷静に考える事もある。しかし、今さら返せない。

「あーあ、やっぱりレオンが相手になると調子狂うな……」

 「廃棄」に分類した魔道機を蹴っ飛ばして、わたしはベッドに横たわった。時計の音だけが室内に響く……。

『イライザ・レオパルトさん、至急職員室まで』

 唐突に呼び出しが掛かった。職員室? なんかやったっけ?

「まあ、行けば分かるか」

 私はベッドから飛び起き。職員室に向かったのだった。


「えっ、遭難?」

 教頭先生から話を聞いた瞬間、私は少し驚いてしまった。なんでも、中等課程の1クラスが「鍛錬の森」で消息不明になったらしい。森に入ってから3日。1日分の装備で出かけたので、そろそろ限界の頃合いだろう。普通こういった場合は街の警備隊が捜索に当たるのだが、今回はそんな時間はない。ということで、私にお鉢が回ってきたわけだ。

「分かりました。早速向かいます」

 それだけ教頭先生に言って、私は急ぎ職員室から中庭まで駆け抜けた。そして、飛行の魔法で空に飛び立つ。例によって探査の魔法で「窓」を開き、外庭上空をあっという間に飛び越し「鍛錬の森」上空に差し掛かった。

「魔物の数は異常ないわね……」

 つぶやきながら私は飛ぶ。レオンの時は一山いくらで売っても一財産出来そうなくらい魔物がいたが、今はパラパラいる程度だ。魔物が遭難の原因とは考えにくい。となると、森の奥か……。私は「窓」の状況に気をつけながら、「鍛錬の森」上空を一周したが、それらしい反応は拾えなかった。

「とりあえず、最奥部の大岩に行ってみるか」

 私は森の最奥部に向かって再び飛ぶ。この辺りは大森林地帯で、「鍛錬の森」はその一部でしかない。ちょうどよく大岩で林道が塞がれているので、そこを「鍛錬の森」終点と勝手に決めているだけだ。つまり、進もうと思えばどんどん先に進める。程なく「鍛錬の森」最奥部の大岩に辿り付いた。

「これは……」

 大岩が文字通り消滅していた。辺りの様子から土砂崩れではない。多分何かの魔法だと思うが……。

「こればかりは直接聞くしかないわね」

 私は再び空に舞い上がった。これからは捜索範囲が大森林地帯になった。広大過ぎる範囲。私1人で大丈夫だろうか……。いや、やるしかない!!  私は気合いを入れ直し、探索作業を続ける。中等課程は1クラス20名構成。それほど遠くまでは行けないはずである。「窓」の情報に注意しながら飛ぶことしばし。ようやく「窓」に青い点が表示された。点の数を数えると21個。よし、問題ない。より位置を確定させるために低空飛行に切り替えると、地上から赤い光球が上がった。これは救難信号だ。私も赤い光球を打ち上げて答える。ここは森が濃すぎて着地には不向きだが……ええい、行くしかない!! 私は結界魔法を使うと、そのまま木の海に突っ込んだ。バキバキともの凄い音を響かせながら、私は一気に目標地点に到達した。

 見ると、不安げな表情を浮かべた20名の学生と……。

「先生、何やっているんですか!?」

 足でも痛めたのか、木に寄りかかって苦痛の声を上げている先生に容赦なく声をかけた。「い、いや、『鍛錬の森』だけでは足りないとかねがね思っていてな、少し長距離に出ようとしたら、木の根に足を引っかけてこのざまだ」

 そう言って先生は苦笑した。レオンなら台詞が終わる前にぶん殴っているが、相手は仮にも教師だ。さすがの私も手出しは出来ない。

「私は救助要請を受けてここに来ています。皆さんを一緒には運べませんが、もう少し我慢して下さい」

 そう言うと、私は手近にいた学生を1人掴んだ。そして、結界魔法を使った後に木々をバリバリ叩き折りながら空に上がる。学校までは数分だ。本当は怪我人の先生から運ぶべきだが、私はあえて最後にする事にしたのだ。こうして、学校の中庭と森を往復する事21人分。さすがに、私もつかれた。

「あの、すまんが肩を貸してくれ」

 先生がそう言うが、私は聞こえないふりをして20名の様子を確かめた。幸い、怪我などはなかったが、私は魔法医ではないので分からない。

「みんな、医務室に行くわよ」

 何とか歩いている先生を無視して、私はみんなを引き連れて医務室へと向かった。これは勘だが、すでに先生よりも私の方にみんなの気持ちが向いている気がする。

 こうして、私の任務は無事に終わった。先生を除く全員は、若干衰弱していたものの特に異常はなし。先生は右足首の骨折。さらに、無茶をした責任を取って辞職したそうで……どーでもいいけどね。

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