第21話 自由時間にて
翌朝早く、私たち一行の自由時間が始まった。正直、なんか眠い。
「ねぇ、どこに行く?」
当たり前のように私の隣に立つレオンが、のんびりとそう聞いてきた。
「そうねぇ……」
このカドニ・クレスタの街は全てが観光地といっていい。温泉目的の観光客に土産を売る呼び子の声が聞こえる中、私たちは適当に散策を続ける。
「あっ、そういえば混浴風呂が……ブッ!!」
なにか言いかけたレオンの口を、反射的に繰り出された私のパンチが塞いだ。混浴? 冗談じゃない!!
「なんだよぅ。いいじゃん混浴」
顔が痛いらしく、さすりながらレオンが食い下がる。
「い、いいわけないでしょ。ななな、何考えているのよ!!」
なぜかどもってしまいながら、私はレオンに返した。
「顔真っ赤だよ。そういうイライザも好きだな。おっと」
私が無言で繰り出したパンチを、レオンは素早くかわした。
……ちっ、やるな。レオンのくせに。
「と、とにかく、混浴は却下。いかなる事情があっても却下!!」
私はそう切り返すのが精一杯だった。
「なんだよぅ、いずれお互いの裸が分かるのに……ほらよっと」
とんでもねぇ事を言い出すレオンに、私は思いきりキックを放ったのだが、見事にかわされた。
……う、腕を上げたわね。
「あ、あのさ、疲れるからもうやめてくれない?」
さすがに疲れ私がそういうと、レオンは小さく笑った。
「冗談だよ冗談。まだ早いよね」
……何が早いんだ。全く
「そういえば、ここは温泉で茹でた卵が名物なんだって、食べに行こう!!」
私の手を引き、レオンは適当な店に飛び込んだ。
「卵1つちょうだ~い」
レオンは清々しいくらい大きな声でそう言った。
「はいよ。元気な弟さんだね」
お店のオバチャンがニコニコしながらそう言った。
……弟。
「じゃあ、私も1つ……」
私も買おうと財布を出した時、レオンがそれをとめた。
「いいの1つで。どっか座れるところで食べよう」
私はレオンに手を引かれるまま、街をひたすら歩く。ここに来て終始レオンペースだ。ちょっと悔しいが、たまにはこういうのもいいだろう。しばらく歩き、人気があまりないところに来ると、ちょうどあったベンチに腰を下ろした。
「じゃあ、食べようか」
綺麗に卵の殻を剥いたレオンが一口食べた。そして、私の前に差し出してくる。
「はいどうぞ」
……なるほど。1つでいいとはこういうことか。
「じゃあ、失礼して……」
私はレオンが取りだした卵をかじる。しかし、味がしない。なぜか分からないけど。
「へぇ。イライザってこれも恥ずかしいんだ。覚えておこうっと」
レオンはいたずらっ子のように言う。
「覚えなくていい!!」
なにはともあれ、全ての卵を食べると私たちは一息ついた。
「全く、今日のレオンは随分アクティブじゃないの。なんかあった?」
私が効くとレオンは不思議そうな顔をした。
「特になにもないしいつも通りだよ。イライザの方がおかしいよ。なんだかすぐ恥ずかしがるし……」
……うっ、昨日のお風呂で考えたせいか。
「ま、まあ、これといった事はないわよ」
私は適当に流そうとしたのだが……
「あっ、嘘ついたね。目が右に流れた」
……こやつ、いつの間に私の癖を掴んだな。昔から言われている事だ。
「分かった。正直に話すとね、今もやもやしているのよ。レオンの事は好きなのよ。でもそれが恋愛なのかそれより1歩引いたところなのか……ん!?」
レオンがいきなりキスをしてきた。なんだか全身の力が抜ける。
「僕はイライザの事が好きだよ。もやもやしているのは、僕が頼りないから?」
……分かるか。んな事!!
「それは違うと思うけど……私って恋愛経験ないからなぁ」
レオンが小さく笑った。
「じゃあ、好きでいいじゃん。ダメならイライザが首から掛けている魔法薬を飲んで別れればいい。それだけだよ」
……おいおい、見た目は5才、頭脳は15才の発言か?
「あのねぇ、そんな簡単に……むぐ!?」
再びキスをしてきたレオンを体を私はそっと抱きしめた。自分でもビックリだ。
「僕だって簡単じゃない事は分かっているよ。これでも時々悩むもん。でもさ、せっかく知り合えたんだし、気軽に恋愛楽しめばいいじゃん。悩む時間がもったいないよ」
……いや、そうなんだけどさ。
「まったく、悩むなっていう方が無理でしょうが……やれやれ」
私は小さく笑った。レオンも小さく笑う。
「少なくとも、僕はイライザがいないと困るし寂しいよ。好きだっていうことは忘れないでね」
「はいはい」
その後、私たちは適当に観光スポットをまわり、遠足2日目の自由行動を終えた。明日はもう帰りである。気合い入れて護衛しなければ……。
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