第13話 とりあえず……

 最初の導水試験、熱水試験、魔法薬精製を一気に続けて行うのは、間を開けてしまうとその前の装置の状態が担保出来なくなってしまうからだ。いざ、魔法薬の精製をしようとしてトラブルが起きてしまうと、そこで使った材料が無駄になってしまう。

 ケチと言うなかれ。何度も言うが魔法薬の原料は高い。いかにレオンのオトーサンが協力してくれたとしても、無駄遣いはできない。

「さて、あと3時間ね。頃合いか」

 そこら中から湯気を上げている装置を見渡し、虚空に浮かべた「窓」を見る。問題ない。熱水試験もそろそろ終わりに近い。私は虚空に「穴」を開け、まず最初の材料を手に取った。いちいち「穴」に入って取るのは面倒なので、手を突っ込めば目的のものが取れるように改変したのだ。さて、それはともかく……。

「ヘル・ダートにアロヘラ、うーん……モカベも入れておくか」

 目的の材料を取り出し、部屋の片隅にある小さなテーブルにおく。

 どれも得体の知れない小さな果実や葉っぱ、根っこに見えるが、これこそが魔法薬の原料だ。私はそれを魔法でそれぞれそっと粗めに粉砕し、乳鉢に入れてさらに丁寧にすり潰していく。これで、原料の調合は完了した。そのままテストの終わりまで待ったが、特にトラブルはなかった。

「さて、ちゃんと動いてよ……」

 祈る気持ちで私は1番近くにある材料投入口に材料を入れた。材料がガラス管を通って火がかけてある丸底フラスコに落ちる。余談だが、他に同じような投入口は6つある。

 爆発だけはしないでねという私の気持ちが通じたか、フラスコで煎じられた材料の上記が複雑に組み合ったガラス管を通り冷却されて液化した後、期待通り最終地点のフラスコへと落ちた。

「よし!!」

 思わずガッツポーズを決めながら、私は装置にぶつからないように気をつけ、精製された魔法薬をフラスコからビーカーに移した。そのまま机に取って返すと私はまず匂いをかいだ。やや甘いような不思議な感じ。そして少しだけ飲んでみる。特になにも起きないがそれでいい。私は確信した、まずは「基剤」が出来たと。

「なんか、やたら緊張したけど、問題はこの先か。

 魔法薬の構造は2つある。主な効果をもつ「主剤」と特に効果は無いが、ほんの少量しか採れない主剤のかさ増しと主剤のサポートのために入れる「基剤」。無駄なようだが、この2つの相乗効果で魔法薬は魔法薬として昨日する。

「イライザ、ご飯~ってご機嫌だね」

 生け贄……じゃなかった、レオンがタイミング良く(悪く?)やってきた。

「そりゃ、魔法薬の第1段階が成功したんだもん」

 私がそう言うと、彼の顔がパッと輝いた。

「えっ、魔法薬出来たの!?」

 私は手で「落ち着け!!」の合図を出した。

「まだ最初。第1段階って言ったでしょ。これからが本番よ」

 レオンが首を横に振った。

「いや、凄いよ。僕なんて魔法薬の作り方なんて見当付かないし、やっぱり凄いよ」

 ……ふっ、これでもくぐり抜けた修羅場の数は半端じゃないのよ……ってね。そう言われて、調子に乗る私じゃない。むしろこれからが本番だ。

「いちおう、テストでこれ少しだけ飲んでみて」

 レオンにビーカーを差し出す。

「えっ、うん、分かった」

 彼はビーカーを手に取ると、恐る恐るといった感じで中の液体を少しだけ飲んだ。基剤は一般的な万能処方なので、問題はないはずだが……。

「ふぅ、なんか不思議な味がするね」

 レオンが私にビーカーを返した瞬間だった。彼の顔色が見る間に変わった。

 ……あれ?

「ごめん、お腹痛い。ちょっとトイレ!!」

 叫びながら、レオンは部屋の片隅にあるトイレに駆け込んだ。これは魔法薬が体に合わなかった証拠。ダメかこの処方は……。

「うーん、これがダメだとどうしようかな……」

 おおよそ食事には相応しくない音と、レオンのうなり声が聞こえる中、私は彼が持ってきたサンドイッチをかじり、思案を巡らせたのだった。

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