第12話 精製開始

 翌朝も早くから、魔法薬精製装置に取りかかっていた。

「さてと、まずは導水試験ね。これだけの規模だから漏れる事を前提に……」

 装置の一番最初。水を通す部分と蛇口の取り付け部分を確認してから、私はそっと蛇口を開けた。これだけの装置になると、目視で全てを確認する事は不可能だ。そこで、魔法で装置全体をモニタリング出来るように仕掛けを仕込んである。だから時間が掛かったのだが、必要な事だから仕方ない。

「よし、問題ないわね。じゃあ、徐々に水量を多くしていって……」

 虚空に浮かべた複数の「窓」に表示された装置各部の情報を見ながら、私は水道の蛇口をゆっくり開けていく。すると、ビーッというけたたましいアラームが鳴った。

「おっとやっぱり漏れたか……」

 私は蛇口を閉じ水が漏れた箇所に向かった。すると、接続が甘かったようでジョイントに使った、真ん中にガラス管が入ったゴム栓が外れてしまっている。私は再接続しなおして、再び蛇口に戻った。結局、導水試験が終わったのはお昼過ぎだった。この後は実際の温度に加熱したお湯で同じ事をする。いよいよ魔法薬創りとなるのはそれからだ。

「はぁ……魔法薬って本当に面倒ね」

 正直、疲れた。今すぐ放り出したいが、それは私のプライドが許さない。

「さて、熱水試験やるわよ!!」

 私は立ち上がると、自分に言い聞かせながら立ち上がり蛇口を全開にした。装置全てに水が行き渡った事を「窓」で確認すると、私は簡単な魔法を唱えた。

「火よ!!」

 呪文は簡単だが扱いは慎重に。私は魔法で生み出した火を装置各所の加熱ポイントに向けてセットしていく。

 しばらくすると、装置のあちこちから湯気が上がり始め、「窓」に表示された各所の状況も問題ない。これを3日ぶっ通しで続け、不具合がなければ初めて魔法薬精製装置として使える状態になる。つくづく面倒だ。

「そういえば、今日も1日何も食べてないなぁ。まあ、ダイエットにはいいか」

 これから3日はここで寝泊まりする事になる。終わる頃には、いい感じで体重が落ちている事だろう。私の気持ちを知ってか知らぬか、絶好のタイミングで部屋のドアが開いた。「イライザ、夜食持ってきたよ……って、凄いね」

 そこら中から湯気を上げる装置を見つめながら、レオンはあっけに取られたようにそう言った。

「まだ中等部ではやらないでしょうけど、これが魔法薬を創るだめの手順ね。今はまだテスト中だけど、4日後には魔法薬の精製に入れるわ。

 私がそう言うと、レオンは心配そうな表情を浮かべた。

「僕が言うのもなんだけど、大丈夫?」

 正直きつい。事情が話せる人を助けに呼べるなら、もうとっくにやっている。これは本来最低でも3人くらいでやる仕事だ。しかし、魔法薬のまの字も知らないレオンを手伝わせるわけにもいかず、これは根性の勝負になる。

「大丈夫よ。それより、今日の夜食は?」

 私が問いかけると、レオンは慌てた様子でこちらを見た。

「ああ、これ。多分温まっていると思うけど、ラーニャとパン」

 そう言ってトレイに乗せて私の前に差し出されたのは、この地域で採れるガルガジ芋で作った団子をトマトソースで煮込んだものとパンだった。実はちょっと芋が苦手なのだが、この際贅沢は言うまい

「それじゃ、いただきます……熱っ!?」

 温めすぎである。慌ててレオンが一緒に持ってきた水を飲み、私は口内の鎮火を行った。

「あっ、ごめん熱かった?」

 慌ててレオンが声を掛けてきた。

「大丈夫よ。そんな柔な口していないから。それより、明日からはずっと手が離せなくなるわ。朝は大丈夫だけど、昼と夜は簡単に食べられるもの持ってきてくれると助かるんだけど……」

 私がそう言うと、レオンはうなずいた。

「分かった。僕に出来ることなら何でも言ってね」

 私の目的はダイエットではない。魔法薬精製だ。これから忙しくなる事を考えると、やはり食事は必要である。

 よし、これで気になっていたこと解消。トイレはこの部屋にあるものを使えばいい……もっとも、本格的になってくるとトイレどころではなくなるが。

「ありがとう。さてと、私はまだ目が離せないから、あなたは早く寮に戻りなさい」

 そう言って、私は彼の頬に軽くキスしたのだった。

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