第8話 実践実践!!
「うーん……やっぱだめか」
出来たばかりの呪文を試してみたが発動すらしなかった。ここは広大な外庭である。簡素な柵で覆われているが、弱いとはいえ時折魔物も出現するため、普段は施錠されて出入り出来ない。実技の授業で使うか使用許可をらないと入れないが、こんなところ好き好んで入る物好きはそうそういない。
「やっぱり禁術に手を出すしかないかな。うーん、悩むわね」
今現在使える呪文で最大限反対魔法に近づけてみたのだが、10パターンほど試した結果どれも発動すらしなかった。かなり無理矢理だったので、ある程度予測はしていたのだが……。
「こうも失敗すると、なんかイラッとくるわね」
そこそこ魔法を使えると自負はあるので、発動すらしない完全失敗が続くとちょっとイラッとくる。こういう時に限ってストレス発散の魔物も現れない。となれば、やることは1つ。
「……ファイヤー・ボール改!!」
呪文を唱え巨大な火球を上空に打ち上げる。そして、派手な爆音と共に花火のように弾けた。本来のファイヤ・ボールは何かに当たったときに爆発するのだが、少し改造して一定時間で爆発するようにしたのだ。
「やっぱり、狙い通り魔法が発動すると気持ちいいわね 」
ストレス発散も完了。私は外庭から学校内に戻った。外庭への扉を施錠し、中庭に行くとちょっとした騒ぎになっていた。先ほど私が打ち上げた「花火」がよほど強烈だったらしく、校舎のあちこちの窓が割れてしまっている。
……あれ、セーブしたはずなんだけどな。
「やっぱり日頃から魔法を使わないとダメね。だいぶ鈍ってるわ」
内心冷静を装いながら、私はこっそり「復元」の魔法を使った。校舎の破損した部分が見る間に修繕されていく。これでよし。
「イライザ~」
タイミングを合わせたように、レオンがトテトテやってきた。
「今のイライザが使った魔法でしょ。凄かったなぁ」
……よく見破ったって、私しかいないか。
「何の事かしらねぇ~」
どうせバレると分かっていたが、私はいい加減に答えた。
「白を切っても無駄だよ。ちゃんと見ていたんだから」
そう言ってレオンはニヤリと笑った。
「えっ、どこから?」
私が問いかけると、レオンはなぜか小さく胸を張った。
「外庭からだよ。気づかなかった?」
言われて私はちょっと驚いてしまった。私以外誰もいなかったはずだが……。
「僕の得意技なんだ。姿や気配を消す魔法」
自慢気に語るレオンの頭をゴツッと殴った。
「いたた、何するんだよ!!」
頭をゴシゴシ擦りながら、レオンが文句を言ってくる。
「趣味悪いからやめなさい」
そんな特技があったら、最初に女子寮から脱出するときに使って欲しかったものだ。
「えー、僕からこの魔法を取ったら、他に何もないよ」
レオンが文句を言う。
「……落第するわよ」
冷たい声で短く言う私。すると、レオンは固まってしまった。魔法使いが魔法使いたる所以は、魔法を使えるからこそだ。使える魔法が1つでは確実に落第する。
「だって攻撃魔法は怖いし、他の魔法は難しいし……」
レオンがゴチャゴチャ言い始めたが、私はその口を押さえた。
「あのねぇ、あんたも魔法使いの端くれなんだから少しは努力しなさい。高等課程に入った時苦労するわよ」
もっとも、高等課程に入る前の段階で昇級試験で落ちるけど。ということは胸にしまっておく。全くどこまでも困った彼氏様だ。
「ううう、それを言われると辛い……」
レオンがそうつぶやいて頭を抱えてしまった。背丈が小さいせいか、その様子がなんとも可愛らしい……っていかん。
「あなたは魔法の実技を頑張りなさい。私はその間にあなたを元に戻す策を考えるから」
そういって、私はレオンの頭を優しく撫でてあげた。
「うん、分かった。実技は苦手だけど頑張る」
現金なもので、パッと顔を輝かせるレオン。なんか、だんだん彼の精神レベルまで低くなって来ているような……。気のせいであって欲しい。
「よし、あなたは実技の練習。私はあなたを元に戻す方法。本気で考えているから、あなたも本気出しなさい。落第したら捨てるからね」
私がそう言うとレオンはうなずいた。
「分かった、頑張る。イライザに捨てられたら生きて行けないもん」
なんかもう真顔でそう言われると、私が恥ずかしい。こうして、今日も平和な休み時間が終わったのだった。
「うーん、城どころかちょっとした国が買えるわね。これは……」
紙に書いた魔法薬の羅列を見ながら、私はペンをペン立てに戻した。呪文がダメなら魔法薬でと思ったのだが、さすが禁術指定されている魔法だけあって、魔法薬で同様の効果をもつ物を創ろうとしたら、とんでもない数の材料が必要になる事が分かった。
「こりゃ魔法薬路線は無しかな。あー、どうしよう……」
魔法とはトライアンドエラーの繰り返しである。1発成功という場合もあるが、それはレアケース。何度も何度も失敗して、やっと結実するのが普通だ。
たった1回でこれだけの材料が必要となると、例えレオンの家が驚くほど裕福だったとしてもさすがに頼みづらい。
「禁術に手を出しますか。私の人生掛けて……」
椅子に身を預けて天井を見つめながら、私はぽつりとつぶやいた。もし、禁術でも構わないというなら、すでに呪文は完成している。試してはいないが、多分成功するだろう。
しかし、使った瞬間私は魔法庁の役人に捕まる事になる。魔法庁とは、魔法の使用について取締しまる場所で、特に魔法を使う機会が多いこの学校は重点監視エリアだ。
「あー、やめやめ。禁術はなし!!」
私は即座に禁術コースを否定した。禁術の使用は、例えどんな理由であれ死罪が基本。あはは、やっちゃいましたぁでは済まされない。
ここまで苦労してレオンを元に戻しても、私が死んだら全く意味がない。私にはレオンを元に戻したら泣くまで殴り倒すという使命があるのだ。
「となると、呪文か魔法薬。……いや、やっぱり魔法薬ね。呪文は発動すらしなかったし……」
私が精一杯努力した呪文では、発動すらしなかったのである。何度も校舎をぶっ壊すのは忍びないので、今度はアプローチを変えてみる。
思えば不思議なもので、呪文に対する厳しい規制はあっても、魔法薬についての禁止事項はいくつかの危険なもの以外はない。恐らく精製に手間取ることと、魔法薬の原料効果すぎてコストパフォーマンスが悪いからだろうが、やる気になれば禁術相当の効果をもつ魔法薬を創る事が出来る。しかし……。
「問題はこの材料をどうやって集めるかね。いくつかは学校にあるけど……」
この学校でも魔法薬の授業がありそれに必要な材料はあるのだが、どれも安価で基本的な物ばかりだ。
もちろん、今回の魔法薬もそのいくつかは使うのだが、高価過ぎて学校に在庫のない物がほとんどだ。幸いここの街で全部買えるが膨大な金額になる。
「ふぅ、気乗りしないけどレオンに話してみるか……」
そういって、私は大きくため息をついたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます