第4話 楽しい呪文解析

「うーん、この呪文は……」

 いつまでも頭を抱えていても事は進まないので、私はレオンが使った魔法を紙に書かせた。

 当の彼はとりあえず私の魔法で制服のサイズを調整してある。これがまた可愛いのだが、元のサイズを知っている身としては何とも複雑だ。

「そんなに変な呪文だった?」

 レオンがそう問いかけてきた。頭の中身まで年齢が退行しなくて助かった。

「変というか、よくこれで発動したわね……」

 私はペンを机に放り出し、椅子の背もたれに身を預けた。呪文には起承転結があるのだが、レオンの呪文は起承承転転結の構成。普通こんなもん発動すらしないのだが……。

「おかしいな。徹夜して考えた召喚魔法なのに……」

 レオンがシュンとしてしまう。その様子がまた可愛いのだ。反則だろこれ。……いかん。我慢しろ私。相手は本来は15だぞ!!

「根本的に召喚魔法になってないわよ。こんなのじゃ落第するわよ」

「えっ、そうなの?」

 心底驚いたと言わんばかりに、レオンが聞きながらベッド上からこちらに寄ってきた。

「もうメチャクチャ。どんな魔法かもわからないわよ」

 私はそう言って、ちょうどいい高さにあったレオンの髪の毛をクシャクシャにしてやった。

「せめて魔法の「キモ」さえわかれば、反対魔法も創れるんだけどなぁ……」

 つぶやきながら、私はもう一度紙に書かれた呪文を見る。魔法には発動の「キモ」となる節がある。ここがわかれば、それと反対の効果をもつ魔法が簡単に創れるのだ。

 しかし、レオンの魔法はどこにもその節がない。文字数的には少ないがこれではただの独り言で終わってしまうだろう。なんで発動したのやら……。

「あの、かなり言いにくいんだけど、もう眠い……」

 目を擦り擦りレオンが言う。見ると部屋の時計は深夜を示していた。

「わかったわかった、先に寝ちゃって。私はもうちょっと探ってみる」

 私がそう言うと、レオンはうなづいてトテトテと歩いていった。私は机上に目を戻し、『魔法言語辞書』を開く。

「さーて、どうしたものか……」

 推定5才のレオンは死ぬほど可愛いが、このままでいいわけがない。なんとかして、レオンが創った呪文を分解しては辞書を参照して意味を探っていく。

「うーん、疲れた……」

 私がペンを置いた時には、すでに窓から見える景色は薄明るくなっていた。結局、レオンの呪文の意味は全くわからなかった。メチャクチャすぎてどう並べ変えても発動要件を満たさない。これ以上考えても効率が悪い。

「私も寝よ。さて、って……」

 ヨロヨロとベッドに向かった私は、思わずその場に膝をついてしまった。そこには先客がいた。言うまでもなくレオンだ。よくよく考えてみればこの部屋にはベッドと机、あとは3段の引き出しかない。寝るにはベッドしかないのだが……。

「普通断りいれない?」

 それなりの付き合いがあるといえ、ここは女子寮。勝手に女の子のベッドで寝ますか普通!?

「はぁ……。なんか気が引けるけど、眠いし寝る!!」

 私はベッドの真ん中でスヤスヤと寝ていたレオンを押しのけ、布団に潜り込んだ。

 あー、なんだろう。この背徳感とドキドキ感は。すぐ隣をみれば推定5才のレオンの顔。 いくら付き合っているからといって、まだキスすらしていないのにいきなりベッドのお隣ですか。そうですか……。

「うがぁ、寝られん!!」

 この状態で寝られるわけがない。私はそこまで神経が太くない。

「レオン、ごめんね」

 一言つぶやいてから、私は彼に「沈黙」と「拘束」の魔法をかけた。これで、彼は自力で動く事も喋る事も出来なくなった。つまり、抱き枕と変わらない。

「よし、寝るぞ。おやすみ」

 ついでに自分に「睡眠」の魔法をかけ、私はベッドに潜り込んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る