第3話 魔法事故

「ん……」

 休み時間ももう少しで終わりという頃、レオンがふっと目を覚ました。

「おはようさん。がっつり寝たわね」

 私はまだ眠そうなレオンに声をかけた。

「ああ、ごめん。完全に寝ちゃった」

 目をごしごし擦りながら、レオンが起き上がった。

「気にしないでいいわよ。いつもの事だから」

 私がそう言うと、レオンは小さく笑った。

「なんだか、恋人同士というより親子……」

 何やら言いかけたレオンの顔面にグーパンチを叩き込んで黙らせ、今日も満天の青い空を見上げる。

 いやー、今日も平和だなぁ。

「痛いよイライザ」

 グーパンチでしばらく悶絶していたレオンが、ようやく復活したようで文句を言ってきた。

「余計な事を言うからよ。さてと、そろそろ休みも終わりだし、教室に戻りましょうか」

 私がそう言って立ち上がると、レオンも立ち上がった。

「あっ、そうだ。昨日新しい召喚術を覚えたんだ。まだ少し時間があるしイライザに見せたい」

 ふと何かを思い出したか。レオンがそう言って、私の目をじっと見てくる。これだ、この目はずるい。

「分かった。急ぎましょう」

 私たちは校舎の1階にある「召喚術練習室」という、何のヒネりもない部屋に向かった。学校内では原則としてここでしか召喚術を使う事が出来ない。理由は簡単。危ないからだ。

「あれ、鍵が開いてる?」

 召喚魔法練習室に到着すると、私は思わすそう言ってしまった。

 初歩の召喚術でも危険を伴うため、この部屋は通常は鍵が掛けられている。誰かが掛け忘れたか、使用中か……。

 ドアをそっと開けてみると、中には誰もいない。鍵のかけ忘れである。

「全く不用心なんだから……。まあ、助かったけど」

 解錠の魔法が必要かと思っていたのだが、一手間省けて助かった……少なくともこの時はそう思った。

 私たちは中に入った。薄暗い室内は床に巨大な魔方陣が描かれ、雰囲気満点ではあるがあまり居心地がいいとは言えない。

「ささっっとやっちゃって、こっちで見ているから」

 私はそう言ってレオンを促す。すると、彼は頷いて部屋の中央に立った。そして、呪文の詠唱が始まる……って、ちょっと待った!!

「ストープ!!」

 私は怒鳴り声を上げたが遅かった。レオンが唱えていたのは召喚術ではない。恐らく、召喚術にアレンジを加えたのだろうが、そのせいで召喚術とは全く違う物になってしまっている。床の魔方陣が強烈に光り、そして消える。

「あ、あれ?」

 状況が飲み込めていないらしく、レオンが声を上げた……だぼだぼの制服を着たレオンが。

「あ、あれ? じゃないわよ。とにかく逃げるわよ!!」

 私は推定5才くらいまで小さくなってしまったレオンを小脇に抱え、召喚術練習室から脱兎のごとく飛び出した。そのまま校舎内を駆け抜け、とりあえずは私の部屋に飛び込む。

 勝手に召喚術練習室を使った上にミス・スペルでこの有様。バレたら放校処分では済まないだろう。

「何やってるのよ!!」

 とりあえずレオンをベッドの上に乗せ、私は息も荒いままそう言った。

「昨日は成功したんだよ。なんでダメだったんだろう?」

 レオンが小首をかしげながらそう言う。

「完璧にミス・スペル。アレは召喚術じゃない」

 これは魔法に詳しくなれば分かるが、呪文の内容で大体の魔法が分かる。呪文を間違える事をミス・スペルと言うのだが、魔法使いがやってはならない原則の1つだ。

「えっ、昨日と同じ……あっ、そういえば間違えたような……」

 レオンが頭を抱えながらゴチャゴチャ言っているが、私もそれどころじゃない。

「とりあえず、これからどうするか考えましょう。午後の授業はエスケープするわ」

 私も頭を抱えながらそういう。

 こうして、レオンが使った謎魔法の対策をする羽目になったのだった。

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