第2話 告白

 キリングドール王国魔法学校は全寮制である。身分も様々だが学内は貴族だろうが平民あろうが平等に扱われる。そうでないと勉学に支障が出るからだ。

 そのお陰もあってバリバリの貴族様であるレオンと、単なる平民である私がこうして普通に接していられるのだが……。

「あーあ、卒業したらどうなるんだろう……」

 中庭のベンチで私の膝枕で、スヤスヤ寝ている彼の頭をそっと撫でる。

 私は今年卒業ですでに学校の教員として働く事が決まっている。この学校と縁が切れるわけではないが、レオンの卒業まではあと3年ある。

「教師と先生の恋愛か。なんか問題よね」

 まだ先の話ではあるが、私は独りつぶやき小さく笑う。思えば彼に告白された時は、ほとんどレオンの度胸試しみたいなものだった。私がちょうど中庭を散策しているところだった。待ち伏せしていた彼の友人数名が、いきなり彼をドンと私にむかって突き飛ばしたのだ。

 結果、レオンは私の胸に飛び込む形になり痛いのなんの。完全にテンパっていた彼は、そのままこう言いやがったのだ。

「好きです。付き合って下さい」

 これ以上はないシンプルな言葉。私の答えもシンプルだった。

「誰だか知らないけど、人の胸に顔を突っ込んだまま告白されてもねぇ。却下」

 私が冷たい声で言うと、彼は慌てて私から離れた。

「ご、ごめんなさい」

 彼は飛び退くようにして私から離れた。

「まぁ、いいわ。その制服からすると中等課程ね。どんな遊びが流行っているか知らないけど迷惑だからやめてね」

 私がそう言うと、彼の表情が変わった。

「遊びだなんて……。僕は本気です!!」

 顔を真っ赤にして言う彼にだったが、私の心は動かなかった。

「友達の力を借りて告白されても嬉しくはないわよ。まず、名乗るところから勉強しなさい」

 そう言って、変な笑顔で固まってしまった彼を押しのけ、私は教室に戻ろうとしたのだが……。

「放課後、屋上で待っています。よろしくお願いします」

 思いの外復活が早かったようで、彼が私の背中にそう言って来た。放課後の屋上なんてベタ過ぎる。

「気が向いたらね」

 そう言って手を上げてひらひらさせながら、私は自分の教室に戻ったのだった。


「あー、どこまでお人好しなんだろう……」

 私は屋上へと向かう階段をゆっくり昇りながら、同じ言葉を何回もつぶやいていた。この時はまだレオンの名すら知らない。そんな相手の呼び出しに応える私も、大概お人好しだと思う。

 屋上へ通じる重たいドアを開けると、すぐに近くに彼が立っているのが見えた。うわっ、本当にいた。

「あっ、本当に来てくれた!!」

 彼はトテトテとこちらに近寄って来た。

「昼間はごめんなさい。友人たちが悪のりしてしまって……」

 そう言って彼は丁寧に頭を下げた。……何か調子狂うな。

「それはもういいわ。で、肝心の用件は?」

 もちろん分かってはいたが、私はあえて彼に聞いた。

「はい、改めて告白します。僕と付き合って下さい」

 そう言って頭を下げ、彼は小さな封筒をこちらに差し出した。

「えっ、手紙書いたの?」

 これは想定外だった。正式に断ろうと思っていたのだが、まさかこんな小道具まで用意してくれたとは……ベタと言えばベタだけど。

「はい、僕は口下手なので文章にした方が伝わるかと……」

 顔を夕日以上に真っ赤にさせながら、彼は私の顔をじっと見つめる。ヤバいこの展開はヤバい。メチャクチャ可愛いぞコイツ。

「わ、分かった。手紙を読んだら考えるね。えーっと、名前も聞いてなかったわね」

 わざと視線をそらして、私はそう言った。

「あっ、そうでした。僕はレオンです」

 そう言って頭を下げる彼。

「私はイライザよ。ちょっと考える時間が欲しいから、3日後またここに来てね」

 そう言って、私は屋上から階下に降りて行く。実のところ、告白されるなんて初めてのことだし、よりにもよって年下である。追いかけるのはいいが、追われるのはなにか

落ち着かない。私は寮の自室に帰ると、手紙を開いた。

「……マジですか」

 手紙の内容はあえて明かさないが、それこそ歯が浮くような言葉の羅列。これを口で言えないのは何とも惜しい……ってそうじゃない。

「あーどうしよう」

 レオンの強烈なアピールに、私の気持ちは急速に彼に向いていく。私は18才で彼は15才。私も通常ならレンジに入らない。しかし、ここまでくると……。

「……まあ、面白そうだしOKしちゃうか」

 キリングドール王国魔法学校の女子寮は全室個室のため相談相手もいない。

 こうして、私とレオンの交際はスタートしたのだった。

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