第16話「シャルロットとの模擬戦」

「それでは、試合開始!」


その声と同時に、俺達は動き──出さなかった。

否、俺はただ動かなかっただけだが、シャルは動けなかったのだ。


戦ってみたいという気持ちは本物だったのだろう。

黒竜帝になってからだが、目を見れば大体は分かる。


しかし、俺とシャルでは強さの次元が違う。

それを第六感と言うべきか、生物の生存本能で感じ取ったのだろう。


「来ないのか?では、こちらから行かせてもらう」


そう言うと同時に、シャルがギリギリ反応できる速度で背後に回り、模擬戦用の木刀を横薙ぎにする。

シャルはそれに反応して身をかがめ避けると同時に、蹴りを入れてきた。


それを余裕を持って躱し、お返しとばかりに抜刀術で斬り掛かる。

無理な体勢で蹴りを入れたため、未だ体勢を立て直せていなかったシャルは、木刀が直撃して吹っ飛んでいく。


壁に激突して大きなクレーターが出来、煙がもうもうと立つ。


「流石にやり過ぎたか?」


スキルも何も使っていなかったが、常人にとって慧の攻撃は当たっただけで重傷になる。

手加減はしていたが、加減が分からなかった為にこのような結果になってしまった。

もう終わったと思い、シルヴィたちの元に行こうとしたその時


「いてて……勝てるとは思ってないけど、ここまで手も足も出ないとは思ってなかったよ」


未だに立ち込めている煙の中から、シャルの声が聞こえてきた。

煙が晴れると、そこには満身創痍と言えるシャルの姿があった。


「まさか立ち上がるとは思わなかったよ」

「まあ頑丈さと素早さ、それと攻撃力が売りだからね。サトルなら、本気を出しても大丈夫そうだ」


シャルはまだ本気を出していなかったらしい。

確かに、ステータスにある《九尾化》と《限界突破》は使ってなかったしな。


「それじゃあ行くよ!《九尾化》《限界突破》!!」


シャルの体が魔力に覆われる。

しばらくすると、尻尾が9本になり赤色のオーラを纏うシャルが現れる。


「さあ、第2ラウンドを始めようか」


この時慧は


(この世界にも第~ラウンドって言葉が存在すんのな)


と、どうでもいいことを考えていた。


「行くよ!」

「っ!ほぅ、結構強くなったじゃないか」


確かに《九尾化》と《限界突破》で軒並みステータスは上がっているが、慧にとってはスライムがゴブリンになった程度にしか感じない。


シャルは上がったステータスと《格闘術》のスキルを使って、素早い拳撃を繰り出してくる。

それを最小限の動きで避け、反撃する。


(まだスキル欄には無いが行けるだろう)

「《竜帝式刀術・竜牙死突》」


木刀が黒と金の魔力を帯び、突きが繰り出される。

技の威力が高すぎると思った慧は、直前で角度を変え、シャルの横を通すようにする。


魔力は木刀から放出されて突き進み、壁に当たるとその壁を消滅させた。


『スキル《竜帝式刀術》を取得しました。ついでに《竜帝式抜刀術》も取得しました』


「いや、ついでってなんだよ」

「?何をボソボソ言っているんだ?まあでも、私の完敗だな。手も足も出なかった」


「勝者、サトル様!」


やっと模擬戦が終わった。

正直手加減するの結構面倒くさかったんだよな。


慧がやっと休めると思っていた、その時


「獣王様!王都に魔物が攻め込んできます!その数約1万!内3割はSSランクです!」


慧のパーティー以外には絶望の報告がもたらされた。


「やっとゆっくり出来ると思っていたのに……なに?滅ぼされたいのか?」


そんな中、慧は魔力を纏ってイライラしていた。

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