第7話「冒険者登録」

 剣戟の音が聞こえる方向に走って数秒でステがバグってますからね、慧は1人の少女が50人の盗賊らしき集団に襲われているのを発見した。

 状況は少女が劣勢。まだ持ちこたえてはいるが、疲労が表に出るのは時間の問題だろう。


(取り敢えず盗賊集団倒して話聞いてみるか)


「あー、助太刀するぞー」


 何とも軽い言い方である。

 少女達は戦闘の最中でも声が聞こえたらしく


「助かる!」

「あ゛あ゛!?誰だテメェは!死にたくないならさっさと失せろ!」


 それぞれ対照的な反応を返してきた。


「んー、俺に勝てたら考えてやるよ、っと」

「がっ!?」

「せいっ」

「ぐはっ!」

「そぉい」

「ぶべらっ!?」


 慧は返答すると同時に蹂躙を開始した。武器は拳だが、特に人を殺すことに忌避感は無い。

 だが、殺してしまうと情報を聞き出せないから、という至極簡単な理由である。

 この世界では襲われると殺すのが普通なので、慧のしている事は変に映るが。

 ちなみに慧は、情報を聞き出したら首を落として殺そうと思っている。


「よし、これで全部だな。」


 戦闘に介入して1分程で、集団は全員気絶して地に伏していた。

 それを手際良く縛って転がして置く。


「助かったよ。礼を言う。」

「いや、こんなこと礼を言われる程じゃ無いさ。ところで、何であんたは襲われてたんだ?」


 まずは少女に事情を聞くことにした。


「私の名前はクレア。この先のユーステティア王国の王都ファガンのギルドマスターに呼ばれてね、移動している最中にこの盗賊共に襲われたんだ。」


 彼女はAランク冒険者のようだ。ファガンのギルドマスターとは知り合いのようで、魔物の討伐を依頼されたようだ。

 冒険者にはランクがあり、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSS、EXに別れているらしい。

 FとEは駆け出し、DとCは中級、BとAは上級、SとSS、SSSは限られた才能のある者しかなれない。EXは1人で国家を落とせる程の実力の持ち主らしい。

 ギルドカードの色は、それぞれ木目、白、緑、赤、青、黒、金、白銀、蒼銀となっている。

 魔物のランクも、これと同じようにランク分けされている。

 慧のいた迷宮最深部は、SS級とSSS級が蔓延る危険地帯であった。


「なるほど、じゃあこいつらはもう殺しても構わないな。」


 刀を抜きながらそう言うと、


「いや、待って。せっかく捕らえたんだ、このまま馬車に乗せて王国に連れて行こう。」

「理由は?」

「盗賊を捕らえて騎士団の詰所に持っていくと、報奨金が出るんだ。」

「よし、連れていこう」


 刀を仕舞い腰に差す。金はいくらあっても困らないのだ。


「即答だね。」


 クレアは苦笑しながら話しかけてくる。


「君は誰なんだい?実力といいその刀といい。冒険者じゃないよね。それなら知っているはずだし。」

「俺は大和田 慧。慧が名前だ。ただのしがない旅人さ。」

「旅人ねぇ。荷物もないのに?」

「これに仕舞っているからな。」


 言いながら無限収納から素材などを取り出すと、クレアは面白いくらいに驚いていた。

 何でも、無限収納は過去に2人しか使えた者がいなかったようだ。


「そっか。じゃあファガンで冒険者登録しないかい?君ならSランクはいけそうだけど。」

「身分証もないし、そうしようかな。あ、こいつら乗せるの手伝ってくれよ」

「力仕事は男の仕事だろう?」

「お前は普通の男より力あるだろうが。」


 そんな言い合いをしながら盗賊を馬車に乗せる。当然全員は無理だったので、荷台に詰めなかった奴らは殺して置いていった。

 ファガンはそこまで遠くなかったようで、日が暮れる少し前に到着した。

 騎士団の詰所に盗賊を持っていき、報奨金として5万7千エンを貰った。

 身分証が無い者が国に入る場合は2千エン払うらしく、結果として5万5千エンが手元に残った。


「じゃあ、まずはサトルのギルド登録から済ませようか。関所で払ったお金も返ってくるし。」

「そうだな。しかしこの世界は奴隷がいるのか。」

「知らなかったの?借金を返せなくて身を売ったり、犯罪を犯して奴隷になる人は結構いるよ。後は違法奴隷だね。攫われて奴隷にさせられる。」

「そうか。扱い方は?」

「家族のように接している人もいれば、物のように扱っている人もいるね。私は後者が大嫌いだよ。」


 その後王都のことを話しながら街を歩き、少しすると剣と盾のシンボルがある建物が見えてきた。


「あれが冒険者ギルドだよ。」

「へぇ、思ったよりも綺麗な所だな。」

「そうだね。職業柄、もっと汚い所だと思われるだろうね。それじゃあ早速ギルド登録しようか。私はギルドマスターに会ってくるから、登録は1人でお願いね。」


 そう言って彼女は受付嬢に話しかけて、奥の部屋に入っていく。


「俺も登録済ませるか。」


 1番近いカウンターに歩いていく。何故か受付嬢が震えているが、気にしないでおこう。


「すまない、ギルド登録をしたいのだが。」

「ははは、はい!え、えっと、ギルド登録ですね!!少々お待ちください。」


 かなり慌てて奥から水晶を持ってくる。

 返って来る頃には落ち着きを取り戻していたようだ。


「先程はすみません、それではこの水晶に手を翳して下さい。表示されたステータスで開始ランクが決まりますので。」

「分かった。」


 言われた通り手を翳す。すると水晶が眩しい光を放ち……割れた。


「え……これは、まさか。すみません、少し奥まで来てもらっていいですか?」


 受付嬢は暫く固まった後、同様した様子で俺に聞いてきた。


「別に構わないぞ。」

「ありがとうございます。では、こちらへ。」


 俺は奥の部屋に案内された。


「ギルドマスター、少しお話があります。」

「ち、ちょっと待ってくれ!ワシは何もしとらんぞ!」


 慌てた様子で年老いた爺さんが出てきた。


「誰もそんなことは言っていませんが。それより、レプリカではなく、オリジナルの水晶を貸して頂きたいのですが。」

「何故じゃ?まさか落として割れたとは言わんじゃろうな?アレを取り寄せる時はかなりグチグチと文句を言われ……」

「さっさと貸しなさい。耄碌爺。」

「………はい」


 それでいいのかギルドマスター


「すみません。先程の茶番はお忘れ下さい。」

「いや、忘れろと言われても。」

「お忘れ下さい。いいですね?」

「わ、分かった。」

「それではもう1度お願いします。」


 俺はもう1度水晶に手を翳す。すると再び眩しい光が放たれ、今度は割れることはなかった。受付嬢とギルドマスター、そして部屋にいたクレアは何故か驚愕の表情を浮かべているが。


「どうしたんだ?みんな揃ってあほ面だが。」

「どうしたんだ?じゃないですよ!!何ですかこのステータスは!しかも種族が表示されないですし。ギルドカードには表示されるんでしょうか……」

「それで?」

「はぁ、もういいですよ。騒いでいるこっちがバカみたいです。ギルドマスター、どうしますか?」

「どうしますか?じゃなくてじゃのぅ。これはEXランクじゃろう。オリジナルの水晶がステータスを表示出来ないとは………また仕事が増えるわい……」

「サトル、君は凄いと思っていたけど、まさかここまでとは思わなかったよ。」


 どうやら俺はEXランクになるらしい。ステータスがErrorになっていたので分かりきってはいたが。


「で、どうすんだ?」

「カウンターの前で待っていてくれますか?ギルドカードを発行して持っていきますので。」

「分かった。」


 こうして俺はEXランクになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る