「バス好きにも」

水橋が運転する1500号車が下倉田駅前へ近づくと、下倉田駅前の交差点にカメラを向けてくる人が5・6人ほどいた。水橋はそのくらいのことはわかっていた。なぜなら、社長の金山自ら会社公式Twitterで運用等をつぶやいているからだ。バス好きの社長だから公式でやろうと思ったのだろう。

水橋もバス好きなので、バス好きに基本は優しい感じである。ルールを守らない奴は別だが。


水橋は、定刻より少し早く下倉田駅前バスターミナルに着き、待機場の撮りやすい位置にバスを止めた。

バス車両もそうだが、水橋は神奈東交通ファンの中でも有名であった。バスターミナルなどで休憩中は、いつもは使わない幕に変えたり、回送時はわざわざ社名表記に変えたりなど、ファンの中でも遭遇できるとラッキーと言われている。それに応えるように、水橋は待機時間に使わない幕や、深夜バス幕などを出してファンを楽しませていた。こう見えながら、水橋自身もかなり楽しんでいた。


時間になり、バスを乗り場に移動させる。

バスを待っていた年配の方から、若い人、さっきバスを撮ってた人など様々な人が乗り、車内は混雑する。

「発車します、ご注意ください」

水橋のアナウンスとともに、ガガガガ…とエンジン音を立てながら下倉田駅を発車する。今日は循環外回りを3周するだけの短い運用である。重低音を響かせながら、車庫の前を通り、桜の名所である桜ヶ丘を通過、閑静な住宅街の中も重低音を響かせ走っていく。

3周し、運用を終えた頃には既に空は暗くなっていた。回送になった1500号車を水橋は、1人車内でエンジン音を楽しみながら、車庫に向けて下倉田駅を出発させた。重低音を響かせ、米粒テールを光らせながら。

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神奈東交通物語 おにぎりまる @13ichinose

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