「カムアウト・オブ・クローゼット」
私は今まで、カミングアウトのようなものを三回受けたことがある。
カミングアウトという言葉の意味を、正しく理解している人は少ないのではないだろうか。
カミングアウトとは、自分のセクシュアリティを打ち明けることを指す。元々の語源は、
今はセクシュアリティを打ち明けるという意味が変わり、日本では重大なことを話すことを指すが、実はこの言葉はLGBTコミュニティが発信源だ。
ちなみに、本人が話したくないのにセクシュアリティが何らかのことで明るみに出てしまうことを、
今日は、私が三回受けたカミングアウトの中で、一つ大きな後悔があることを綴っておきたいと思う。(あまり詳しく書きすぎるとアウティングにやってしまうので、そこは気をつけつつ語ろうと思う。)
とはいえ、私はカミングアウトっぽいカミングアウトをされたのは三回のうち一度きり。あとはみんな、それがカミングアウトともほぼ気づかずに過ぎていき、今思い返せばアレってもしや……、という具合なものが多い。
初めてカミングアウトされたのは、小さい頃から仲良くしていた友達。別々の高校に上がって、久しぶりに会った時に「うち、彼女いるんだ」と言われて「へぇ〜」で終わった。何となく、ボーイッシュな子だったし、女子にモテそうだなあと思っていたからか、私もそこまで驚かなかった。中学の時は彼氏もいたし、まあバイなんだな、と。それだけの感想だった。
……そもそも、私はあまり人の興味関心には興味がない。誰がどんなものが好きでも、法に触れなければ自由だと思うし、別に自分に影響があるわけではないから割り切れるのだ。
そもそも、他人自体にあまり興味を持つことがないので、ちょっとアセクシャル、ノンセクシャル(無性愛)気質があるのかもしれない、なんて思うこともある。
二回目は、私が外国に留学中のことだった。留学先のビジネススクールでは、日本人は二人しかいなかった。一応日本語の授業もあって、手伝いと友達を増やすために出席したりしていた。
その学校で出会った、一人の外国人の女の子がいる。彼女は日本語を学んでいて、日本に留学経験もあった。日本語がかなり上手くて、ほぼ初めて外国にいく私にとって、彼女の存在はどれほど大きかったことか。
ある日、私たちはレストランでご飯を食べ、その後に「少し歩きたいんだけど、いい?」と言われた。なんだかその様子に違和感を感じた。その違和感が、彼女の目線だと気づいた。
そこで私は、防衛線を張った。
「あー、なんかここ歩いてると、いろいろと思い出すなあ」
「……彼のこと?」
私には、当時仲良くしていた外国人の男性がいた。この彼女と会う数日前に、私と彼は夜の散歩をしていい雰囲気になっていて、そのことをわざわざ詳しく説明をした。言わなくてもいいのに、彼女の前で、はっきりと言った。
そして、それを聞いた彼女の声は、明らかに沈んでいた。
私は、どうすれば正解なのかがわからなかった。
「好きなの?」
「うーん、わからない。多分、好きだと思う」
彼女の問いかけに、何も気がつかないふりをしてそう返した私。きっと今でも、彼女は私がこの時こ彼女からのほのかな好意に気づいていないと思ってるかもしれない。
そのあと彼女は私に、「私も日本人の彼女が欲しい」と呟いた。私は、そうなんだ、としか返せなかった。少し気付いていたから顔に出して驚いたりはしなかったけれど、その後に何も返す言葉が思い浮かばないほどには戸惑っていた気がする。それは、私にとってほぼ初めてのカミングアウトだったからだと思う。
きっと、彼女は私という選択肢しか存在しなかったから、私を選ぼうとしたのだと思う。きっと他にも日本人の女の子がいれば、その子を選んだだろう。
私には、この方法しかなかった。相手を深く傷つけることなく遠ざけるには、あの頃はこの方法しか思いつかなかった。
昔の私の防衛線が正解だったとは、やっぱり思えない。もっと違う方法があったと今でも思うし、きっと今なら、もっと上手い言葉を彼女にかけることが出来たのではないかとも思う。
でも、この一件があっても私たちは仲の良い友達だ。彼女は日本に来て、念願の日本人の彼女を見つけた。この間一緒に会って、三人でご飯を食べた。三人で食べるとんかつは、とても美味しかった。二人はとても幸せそうで、私は心から良かったと思った。
でも、今のままでは二人はずっとは一緒にいられない。なぜなら、同性間の結婚は日本では認められていないからだ。つまり、彼女は日本では配偶者ビザが取れないのである(今度また同性婚問題について言及しようと思っているのでここでは詳しくは述べない)。
私は、彼女たちがずっとずっと幸せでいられるように、サポートを続けたい。異性間のカップルと同様の権利が得られる、その日まで。
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