「MtF:マウントフジ……じゃないのである」
MtF、FtM。
この二つの単語を知ったのは、つい二か月ほど前の事だ。
最初は、読み方すら知らなかった。
「……えむ、とぅー、えふ? えふ、とぅー、えむ?」
読み方を変えれば、マウントフジ(富士山)とも読める気がするが、どれも違う。
それぞれを、
では、皆さんはこの英単語が何を意味するのかご存じだろうか。
実は、この単語
一昔前、これらの人々のことを性同一性障害とひとくくりに読んでいた。実は、今は性同一性障害は性別違和と名前を変えている。
自分の身体の性と、心の性が食い違っていることは障害や病気ではないと、広く認められつつあるからだ。名前の変化は、あまり知られていない気もするが。
そして、厳密にいうとMtF・FtMと性同一性障害も違ったりする。性同一性障害は、病院に通ってお医者さんに診断書をもらって初めて性同一性障害と認められるのだ。そもそも病院に行ってない人は、この名前を名乗れないというわけだ。
また、MtFとFtMのように身体の性と心の性が一致していない人々のことをまとめて、トランスジェンダーという風に言う。
――ここまででお分かりいただけたと思うが、この業界、やたらと初見の言葉が多いのである。
***
私は、今まで周りに親しい人でトランスジェンダーの人はいなかった。
いや、厳密に言えば中学の時の同級生が、FtMだった。名前と性別を変更したという噂があったが、さほど仲良くはなかったので、彼が今どういう状態かは知らない。
この仕事を初めてから、やたらとFtMの人たちに会うようになるが、毎回と言っていいほど私は気づかない。FtMの人って、本当に判別がつかないのだ。
この前、営業先の飲食店で会った店長さんが、優しく話かけてきてくれたときのこと。私は美人上司と親子丼を食べていた。その店長さんのことは、セクシュアルマイノリティの方とは知っていたけれど、詳しいセクシュアリティまでは知らなかった。
筋肉質な腕や、ちょっと女性っぽい喋り方、そしてその背丈格好からするにゲイの方だろうと私は予想をつけた。
そして普通に会話している中で、私は衝撃の一言を聞くのである。
「あ~、そこらへん、よく注射で行くんだよね~!」
注射というワードが関係するのは、セクシュアルマイノリティの中では、性分化疾患(インターセクシュアル)か、トランスジェンダーだけ。
彼らは、ホルモン注射をして、それぞれが戻りたい性別に身体を近づけるのだ。
主に、トランスジェンダー男性(FtM)は生理が止まったり、体毛が濃くなったり、ヒゲが伸びたり、筋肉が付きやすくなったりする。性欲も高まるらしい。
トランスジェンダー女性(MtF)は、身体に脂肪が付きやすくなったり、体毛が薄くなったり、女性ホルモンの影響で気分の浮き沈みが激しくなったりする。
手術をしなくても、ホルモン注射をするだけでわりと心の性別に近づくことができるのである。
しかし、ホルモン注射はそれなりのリスクも伴うとのことだった。
注射というワードを聞いて、すっかり男性のゲイかと思っていた私は、思わず口をあんぐりと開けてしまった。
街中ですれ違っても、絶対に昔女性だったとは思わないだろう。それくらいのクオリティーなのだ。きっと、彼を知らなければ100人の人が間違いなく男性と答えるような容姿なのだ。
これが私の(ほぼ)初めての性別を適合した方との出会いだったのだが、その後にあったFtMの人たちでホルモン注射をしている方々のことはもれなくわからなかった。向こうから自己紹介の時に言ってくれない限りは。
……ちなみに、トランスジェンダー女性(MtF)の方は、めっちゃわかりやすい人とわかりやすい人の二択の場合が多い。なぜなら、元男性の方たちは、骨格がしっかりしている人や背が高い人が多いからである。
しかし、綺麗な人は「負けた……」と思うくらいとてつもなく綺麗だ。彼らの高身長ですらっとした体型は、なかなか手に入れられる代物ではない。
実際にトランス女性に会ったとき、女性として生まれたにも関わらず、普通に勝てないと思った。
***
実は、トランスの方たちは身体の性と心の性が一致していないということで、レズビアンやゲイ、バイセクシュアルなどの性志向(好きになる性)の問題とは違う問題がたくさんある。
例えば入るトイレで困ったり、温泉で困ったり、更衣室で困ったり……。好きになる性は、言わなかったり嘘をつけば隠せるが、トランスジェンダーの方々は、外見で判明してしまう場合がほとんどなのである。
――隠したくても隠せないのが、彼らなのだ。
そんな中で、苦しみを感じて死を選んでしまう人がLGBTコミュニティの中でもダントツ多いと言われている。
少しでも、そんな世の中が変わりますようにと思いながら、私は少しでも理解が広まるようにと、このエッセイを綴っている。
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