「デリヘルをやってみた」



 デリヘル。

 

 その一単語を聞くと、明らかにいかがわしい香りが漂ってくる。そっち系の話を期待している人には大変申し訳ないが、おそらく至って(?)健全な話である。


 二丁目にHIVの予防を目的としたとある施設があるのはご存知だろうか。

 そこの施設では、ほぼ毎週、二丁目のゲイバーやレズビアンバーにコンドームを配布するというボランティア活動を行っている。

 美人上司が「やりにいこう!」と声をかけてくれたので、施設に赴き、「デリバリーボーイズやります!!」というように担当の方に声をかけた。

 そして返ってきた言葉がこれだった。


「あ! デリヘルやるのねー!」


 そこからの今回のタイトルというわけだ。


 率直な感想を言うと、ぎょっとした。

 デリヘルなんて、うっふんな女の人が男の人とあっはんなことをする、みたいなイメージしかなかったからだ。

 でも、説明を聞いてここでのデリヘルは意味が違うことを知った。Delivery Health、つまりは性健康を運ぶために行うものだ。コンドームを運び、使ってもらうことでHIVの予防につなげる。そうした健康をもたらすことが、この活動の本質なのだ。

 本来の言葉の意味にこちらの使い方の方が断然近いといえると思った。



***



 そんなわけで、当日デリバリーガールズとして参加をした。

 ガールズが参加することは少なくないらしいが、その日は上司と私の二人だけ。圧倒的に男性が多かった。

 ちょっとどきどきしながらも、ぶかぶかなユニフォームに袖を通すと、いつもとは違う日常に入った感がまして高揚感が高まった。このツナギを着てみたいという理由で参加する人も多いと聞いた。確かに、オシャレである。

 この業界、やけにダサい人が少なく、ハイセンスな人が多い。それもきっと、影響していると思う。


「じゃあ班にわかれまーす」


 二十人弱の私たちは、四つのグループに分かれた。そこから、分担して配っていく。

 私は男性三人と一緒のグループで、台湾から来た二人と一緒。

 参加者は国籍もさまざまで、ほかにもいかにも外国!って顔の方もいた。どこの国から来たのか聞く機会はなかったが。


「オレ、トランプ。よろしくね」


 一番慣れていそうな、グループのリーダーの人が話かけてくれた。

 参加している人は、ほぼ全員がハンドルネームを使っている。みんな、それぞれに事情があるのだ。

 二丁目での暗黙のルール。セクシュアリティをむやみやたらに聞かない(でも、大体の想像はつく)こと。そして、彼らのリアルに深く踏み込みすぎないこと。

 土足で踏み込んだら一発でシャットアウトだと思う。


 トランプさん(仮)はとても優しくて、私は久しぶりに「この人、とっても波長が合う」と感じた。彼がどう思っているのかはわからないけれど、お兄さんみたいで面倒見もよく、とってもいい人だった。

 そこでふと思ったのは、ノンケ(ストレート)の女性がゲイの男性に恋をしたらどうするのだろう?ということ。私にはパートナーもいるし、セクシュアリティを理解しているから恋に落ちることはないけれど、彼みたいに優しい人ならば、今まで惹かれる人も少なからずいたはず。

 そして、もしセクシュアリティを知ったうえでもまだ好きという気持ちを持つ女性がいたら、その人はどういう行動をとるのか。それも少し気になるところである。絶対にかなわない気持ちだろう。その気持ちは、どこへ行くのだろうか。

 そんな経験がある人がいたら、ぜひ話をしてみたい。



***

 


 準備を終え、コンドームを入れた袋を持って、いざ夜の金曜日の二丁目へ。

 金曜日だから、人はかなり多い。昼間に何度か二丁目を訪れたことがあるが、ひたすら人がいない、閑古鳥が鳴いているシャッター街といったイメージだった。

 夜はそんな寂しいイメージも一転。たくさんのセクシュアルマイノリティが集まる騒がしく明るい街になる。

 夜、日の当たらない時間にだけ賑やかになる二丁目の様子を見ていると、まだまだ彼らは生き辛いのだろうと胸が痛くなる。本当に、今までどこに隠れていたの?というほど人がいるのだ。


 ゲイバーを中心に配布していくのだが、私がいるチームにはビアンバーも数件含まれていた。ゲイバーの中には女性が入れないというお店が多々あり、私は女性OKのところと、ビアンバーを回らせてもらった。


「こんにちはー!」


 元気に挨拶をして、ホルダーを確認する。足りない分だけ補充して、それを紙に書く。後で全体の報告会があり、そこで報告するのだ。

 数が減っていなかったからといって、悪いことではない。おいてもらうことに意味がある。HIVを予防するために活動している人たちがいる。そんなことを示すためにも、この活動は重要なのである。

 配っていく中で「女の子もやってるんだ」とお客さんに言われたり、「なにしてるの?」と声をかけられたりした。そんなときはきちんと活動を説明して、知ってもらう。少しずつ、地道な作業だけれどきっとこれがいつかは実を結ぶ。


 ゲイの友人に、どんなタイプがモテるのかと聞いたとき、「熊みたいなふくよかな人か、ゴリゴリのマッチョが大抵モテる」と言っていたが、ゲイバーのママさんたちを見て、私もその意味が分かった。めっちゃ熊系多かった。芸能人で言えばケンコバさんみたいな人たち。


 

 会員制のバーにも入れたり、いつもは行かないようなバーに行けたりしてとても楽しかったボランティアだった。そして、お菓子を頂いたりお茶をいただいたりとありがたいこともあった。女子だけれど。

 また、定期的に参加したいと思う。みなさんもぜひ。



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