第3話 肌がざわめく新メニュー
「ここも、ここにも付いてる」
「店長…!」
「名前で呼んで、って言ってるでしょ。ああ、ここにも。凄く甘いな、まだそんなに砂糖入れてないのに。どうしてかな。」
「る、ルーファスさん、何を、何をするんですか」
作業台は広い。一度に10ホールものケーキをデコレーション出来る広さを確保しているからだそうだ。
その台の上に乗せられていた。両脇から腕ずくで持ち上げられ、降りようとすると止められた。両手で日向の腰を抱えるようにつかんで、顔や首筋を舐めている。
歯でエプロンの紐をほどき、ブラウスのボタンも器用にはずしてしまう。その早業に思わず見とれてしまった。さぞかしたくさんの女性経験があるのだろう。
「そ、そんなところにはもう、付いてないです。」
どうにか相手を押し放そうと両手に力を入れるが、一向に効果がない。こんなにこの人の肩幅って広かったのだ。
「いや、付いてるよ。…ふふ、おかしいな、僕は果実は用意してなかったのに、ほら、こんなところにベリーが二つも。」
「やなこと言わないで下さいっ」
「どうしてさ。こんなに赤く実ってるじゃないか、早く摘まなくちゃね。」
いつのまに下着まで剥がされていたのだろう。露わになった上半身に、口をつけてくる。普段触れられることのない素肌の上を通る唇の感触は、ぞくぞくするほど柔らかく優しかった。
「や、駄目、です」
「駄目じゃないよ。これは僕のものだからね・・・味見」
生暖かくて濡れた何かが胸の先端に触れた。全身が粟だった気がした。息が上がる。彼の肩を掴む両手に力がこもる。けれども、もう押し放す事はなかった。
「なんで、こんなこと、するんですか」
「なんで?そんなこともわからない?ずっと君が好きだったからに決まってるでしょ?気づかない君がどうかしてる。日向が初めて面接に来たあの時から、もうずっと君の事ばっかり見てたのに。」
「え?」
「ローサにいびられてるのも全部見てた。僕に助けを求めてくれるかと思ったのに、君は全然僕に頼ってくれなくてがっかりしちゃった。」
店長は全部知っていたのか。
それなのに何も言わずに放置していたと言うのか。
自分が、日向自身が自分から伝えてくれるのを待っていたのだと。
「さすがに今日のは、ちょっと度が過ぎてたから注意したけどね。彼女の悔しそうな顔、たまらなく面白かった。」
彼の唇や舌の動きが少しずつ下へ下がっていく。それを追いかけるように、その赤毛が肌の上を這っていくのが、くすぐったかった。
「脱いで。全部舐めさせて、僕に。」
「や、やです」
「新メニュー考えようと用意していた材料を、君が全部駄目にしちゃったのに?」
「そ、それとこれとは!」
「勿体無いでしょ?全部捨てるよりずっとエコだよ?」
「そんな、」
すっと店長が顔を上げた。憎たらしいほど整った顔立ち。パティシエなんかより俳優の方がむいてるんじゃないかと思えるくらいだ。その自信に満ちた表情がにわかに曇った。
形のいい眉を歪めて、少し悲しそうに言う。
「駄目なの?」
「だ、駄目って」
「どうして駄目なの?僕の事嫌い?君が嫌がらせにも我慢してここへ来てくれていたのは、僕を好きになってくれたからじゃないの?」
ひくっと震えた。自分の気持ちなど、とっくの昔に店長は知っていたのだ。
「す、好きでも、これは、」
「痛い事は何もしないよ。僕に許して、君に触れることを。ずっと好きで、ずっと我慢してたんだ。お願いだから。」
ずっと憧れ続けていた人に、そんな風に優しく言われて強情を張れるような日向ではない。
促されるまま、ゆっくりと腰を浮かせて下着とジーンズを脱ぐ。
恥ずかしい、と思う反面、昼間シャワーブースを借りて洗っておいてよかったと思ってしまった。
まさかこうなることを見越して、彼はあの時自分にあそこを使わせたのだろうか。
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