第5話

「無理を承知で頼みます。どうか、私の友人を買ってください」


そう言って頭を下げた。

慌てたような支配人の声が聞こえたが、損なことでもないだろう。

買ってくれと言ったのだ、金はそちらに入るだけだ。

説得の分、時間はかかるが。


「それは私の得になるかい?」

「それは……」


言葉に詰まる。

男だから、強いから。

そんな理由では駄目だ、と本能的に感じた。


「……彼には、知識があります。地理や歴史、あらゆることについて。もし旅に出ようなら、まず飢えに苦しむことは無いでしょう」


そう言うと支配人は便乗して、狩りもできるのですよと誇らしげに言った。

お前達には真似出来ないくせに。

心の中で悪態をついた。


「ふむ……」


もしこれで救えないのなら金を奪って逃げ出してしまおう。

自由になって彼を見つけて、そして。


顎に手を当ててしばらく考える素振りを見せたあと、男は支配人に声を掛けた。


「その友人を買ってもいい。ただ一つ条件がえる。条件に関わらず、彼女の倍の金を出そう」


貪欲な亡者は卑しい笑みを浮かべた。

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夜の渚 しじみ @mizuho0410

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