きっと、忘れない
春田康吏
第1話
明日、私はこの町を引っ越す。今日は学校で私のお別れ会があった。
一番仲良しだったユウちゃん。
私が教科書を忘れた時、見せてくれたサッちゃん。
給食に嫌いな物が出た時ペロッと食べてくれたタカシ…
私、花束もらった時泣いちゃったっけな。
でも私はたった一つだけ気になってることがある。
それは、一番仲良しだったユウちゃんのこと。
実は、ちょっとしたことで言い合いになってケンカしちゃったんだ。
お別れ会の時、ユウちゃんは一番後ろの方でうつむいてたっけ。
帰る時、思いきって声をかけようと思ったけど、もうユウちゃんはいなかった。
だから仲直りは結局出来なかった。
「はぁー。一生、このままなのかな」私はため息をついた。
今から電話してみようかと思ったけど、もう遅い時間。お母さんが許してくれるはずがない。
仕方ないので私はベッドに横になって、ユウちゃんと遊んだ時のことを思い出しながら眠りについていった。
次の日の朝。朝ご飯を食べている時、
「良かったわ。思ったより早く片付いたから、すぐ出発出来そうよ」とお母さんは笑って言った。
でも私は、黙って食べていた。そんな様子の私を見てお母さんは、
「そりゃ、彩は今の友達と離れ離れになってさびしいかもしれないけど向こうに行けば友達だってすぐ出来るわよ」と言った。
私は、心の中でそうじゃないんだけどなと思いつつ、「うん…」と言った。
そして、いよいよ出発の時が来た。
私が玄関の前でじっとしていると、「おーい、行くぞー」と車の中からお父さんの呼ぶ声が聞こえた。
もうダメか。そう思って車に乗り込もうとした時だった。向こうの方から誰かが走ってくるのが見えた。
「ユウちゃんだ!」私は思わず声を上げた。
「彩ちゃん、ごめんね」「ユウちゃん、ごめんね」二人同時に同じ言葉が出た。
それが何だかおかしくて二人とも笑った。
そしてユウちゃんは、
「これ、あげる。彩ちゃんとペアだよ。だから、これ着けてれば私たちきっと忘れないから」と言ってビーズのペンダントを差し出した。
「えっ、ありがとう。私もユウちゃんのこと、絶対忘れないよ」
「そろそろ行くわよー」お母さんの呼ぶ声がした。
私は、ユウちゃんからもらったばかりのペンダントを見せて、ニッと笑った。
そんな私の顔を見てユウちゃんもニッと笑った。
「また会おうね」二人のペンダントが朝の光にキラキラと輝いていた。
きっと、忘れない 春田康吏 @8luta
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