最終話

 入院というのはとかく暇なものだが、私の場合は命がけだった。

 個室の中を歩くのさえおっかなびっくり。当然室外には出ていない。

 まあ、出たくても護衛の騎士に止められるだろうけれど。

 ちなみに、怪我は全治6ヶ月以上。毒物は幸い後遺症は無かった。

 入院期間は未定である。とにかく傷がまともにくっつくまで退院は出来ない。面会謝絶も相変わらず継続である。

 それでも毎日ジーンは病院を訪れているらしく、まだ面会謝絶である事を知ると持ってきた花を置いて帰るらしいが、その花を私の病室に入れる事はできない。安全が確認出来ないからだ。

 全てを疑え。嫌な話だがこれも私のため。今やこの病院は厳戒態勢におかれていた。

 ちなみに、窓にはカーテンを引き絶対近寄るなと言われている。狙撃の可能性があるからだ。

 なんかもう嫌になるが、私を狙うやつがいる以上これも致し方ない。

 そんな緊張の3ヶ月が過ぎ、私はやっと退院の運びとなった。

 通院は必要だが傷の経過は良好と聞いている。

 病院から出た途端、勢いよく馬車がやってくる。素早く御者がドアをあけ、馬車に飛び込むとそこにはジーンがいた。

 言葉は要らなかった。ジーンは私に飛びついてきた。

「いたたた、まだ怪我治っていないんだから……」

 そう言いながらも、私はジーンの頭を撫でる。彼は声もなく泣いていた。

「……許さない。アリシアをこんな目に遭わせるヤツらは皆殺しだ」

 ……おーい、ちょっと見ない間にキャラ変わった?

「怖いこと言わないの。私は平気だから……」

「いや、絶対に許さない。斬ったやつも毒を入れたやつも、王令で家族全員皆殺しにしてもらう」

「だから、私は大丈夫だって。憎しみは憎しみを呼ぶ。家族には関係ないわ」

 ……あー予想はしていたけどこうなったか。家族には関係ない。それなのに殺してしまったらそれは憎しみの種になる。私を狙う者が増えるだけだ。

「だって……」

「そこまで思ってくれる気持ちだけでいいわ。さて、久々に城に帰れる。怖い考えなんて捨ててゆっくりしましょう」

 私がそう言うと、ジーンは頷いた。

「よし、良い子良い子」

 わたしはジーンの頭をワシャワシャ撫でた。まるで犬でも扱うような行為だが、この際気にしないで頂きたい。

 馬車は病院から下町を抜け、城に向かって一直線に進み無事に到着した。

 私が馬車から降りると、城に勤めている全員が前庭に出てきて拍手で迎えてくれた。そして、昼間なのに一斉に花火が上がる。

「国王ね。きっと」

「だろうね、相変わらず派手好きだなぁ」

 そんな中、私たちは手を繋いで城内に入ったのだった……。


 後の捜査で、私を狙ったのはジーンに密かに思いを寄せていた侍女が主犯と分かった。

 邪魔な私を排除するために、密かに国王に不満を持つ騎士の1人を焚き付け、自ら病院食に毒を盛ったらしい。

 その結果、あの脳天気な国王が本気で怒り狂い、本人はもちろん一家郎党全てを処刑する触れを出したが、狙われた本人である私が恩赦を求めた結果、侍女は城を放逐されこそはしたが処刑は取り下げとなった。

 何でも殺せばいいというものではない。甘いかもしれないけどそれが私のポリシーだ。


 そして、10年後……。


「あのさ、もうあんた24よ。まだやってるの?」

 私に抱きつきながら、随分と大きくなったジーンが寝ている。

「だって、アリシアの事好きだもん」

 ……はぁ。

 ジーンは王立大学の4年生。私は女として良い感じで脂が乗り始めた34才である。

「全く、アリスに笑われるわよ」

 そう言って私は苦笑した。

 私たちのベッドの側には赤ちゃんを乗せるバスケットがあり、中には生まれたばかりの赤ちゃんがすやすや寝ている。

 名はアリス。女の子。私とジーンの子供だ。

「全く大きい子供と小さい子供、お母さん大変だわ」

 やれやれとばかりに私はジーンの頭を撫でた。

 

 ……えっ、嫁? お姉さん?

 んー、もうどっちでもいいわね。おんなじようなもの、お互いに大事な人なのだから。

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私は嫁? お姉さん?? NEO @NEO

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