第34話 毒殺未遂

 翌日、私は警備隊の事情聴取を受けていた。あくまでも、傷や体調に差し障らない程度でという条件付だったが。

「……なるほど、夜中に目が覚めたので、そのテーブルにあった夕食を食べたところこうなったというわけですね。……大変申し上げにくいのですが、食器の下にこんな物が挟まっていまして……」

 人の良さそうな刑事さんは、躊躇いながらも紙切れを出してきた。


『よそ者は死すべし。王族を汚すな。お前の居場所はない』  


 あー、やっぱり……。

 どこの誰かは知らないが、その目的は察しがついていたのだ。

 ……またよそ者か。

「現在は怨恨の線で捜査しています。病院職員全員を洗っておりますので……」

 私は警部の話を聞いていなかった。

 ……私が一体なにをした? ここはそこまで保守的な国なのか??

 2度も殺されそうになれば、いかなわたしとてさすがに心折れて泣けて来る。

 階下からジーンの怒鳴る声が聞こえて来た。今は私の部屋だけではなく、このフロア全てが封鎖されている。例え王族でも入る事は許されない。

「……あの、大丈夫ですか?」

 警部の声に私は我に返った。

「え、ええ、大丈夫です」

 全然大丈夫じゃないが、とりあえずそう答える私。

「正直に答えてください。顔色が真っ青です。無理もありません。今日はもうお休みください」

 そう言って、警部はニコッと笑った。

「はい、そうさせて頂きます」

 私はふらふらと自室に帰ると、そのままベッドに倒れ込んだ。

「何なのよもう……」

 泣くのは私のポリシーに反するが、今は泣くべき時だろう。私は枕を顔に当て思いっきり泣いた。

 ……今はジーンもいないし、弱いところ見せてもいいよね?

 私だって王族である前に普通の女の子なのだ。実家でイタズラしていた頃が懐かしい。

 ひとしきり泣いたあと、気になったのはジーンだった。

 あれだけ手が掛かるのだ、もう1ヶ月近く面会謝絶である。今回の毒物事件でさらに伸びそうだ。

 大丈夫かなぁ思う。帰ったら……無事に帰れたらどうなるかは大体想像が付く。

「やれやれ、こりゃ大変ね」

 私はジーンがどうなるか想像して頭を抱えたくなった。そうでもしなければ、やっていけなかった。

 そんなこんなでちょうど夕食時になった。配膳が始まるが、さすがに食欲はわかなかった。「警備」についで新たに「毒味役」が追加されたが、完璧に人間不信に陥っているようで信用できない。見知った顔で仲がいいのだけど。

「アリシア様、お食事ですよ」

 部屋をノックしてから、元気いっぱいに入ってきたのはとある侍女だった。彼女が毒味役である。

「あれ、泣いていました? 目が真っ赤に腫れてます」

「えっ?」

 慌てて手鏡を見ると、確かにそうだった。うわ、恥ずかしい。

「まあ、泣きたくもなりますよね。では、毒味やらせて頂きます」

 そう言うと、彼女は片っ端から私の夕食を食べた……全部。

「あっ……」

 やっと気がついたか、彼女の手が止まった。

 まあ、食欲がないからいいものの、普通だったら……フフフ。

「もう一回貰ってきます!!」

 彼女はそう言って部屋を出て行こうとしたが、私は止めた。

「待って、いいのよ食欲なんて欠片もないから」

 私がそう言うと、彼女は首を横に振った。

「いけません。食事は万能の薬です。今とって来ます!!」

 ……食べられるかな?

 私の心配は杞憂に終わった。私の食事の「おかわり」はなかったのだった。

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