第31話 散歩
いつも通りジーンを学校に送り出したあと、私は自室に戻ってベッドに横になっていた。 清潔なシーツの匂いが心地いいが、今はあまりそれを楽しんでいられる気分では無い。恋愛まですっ飛ばして子供を産めというのだ。それは嫌だ。断固拒否する。
「まいったわね。まあ、政略結婚である以上は覚悟はしていたけど」
子供を産み、一家族を築いて初めて一人前とする。ここはその悪しき伝統が健在らしい。
しかし、現実的な問題で離別は出来ないし、仮に出来たとしてもとても出来ない。国のとーさんに迷惑が掛かるし、ジーンには耐えきれないだろう。
「まっ、ゆっくりやりますか」
うじうじ悩んでいるのは柄じゃない。私はベッドから起き上がると、鏡台の前で軽く薄化粧を施し、壊れかけているボロソファーに腰を下ろした。
そういや、なんでこのソファ持ってきたんだろ。特に思い入れがあるわけじゃないのに。
「あーもう、ジーンがもうちょっとだけ大人ならなぁ」
これは当初から思っていたことだ。政略結婚に恋愛感情は関係ないのだが、ジーンはジーンなりに頑張っているし、時折見せる大人の顔にどきっとさせられる事もあるが、基本的に甘ったれ坊主だ。
しかし、もしジーンが誰か他の女の人と歩いていたら多分私は嫉妬する。これは悪い傾向ではない。てか、恋愛ってなんだっけ?
あーいかん、また悩んでる。こんなの私じゃないぞ!!
「よし、散歩行くか。今日は城外に行こう」
こういうときは動くに限る。私はまず1階にある事務管理部を訪れた。
「ちわーす、散歩行ってきます」
部屋の入り口にあるカウンターで私がそう言った瞬間、事務管理部の人たちが勢いよくかつ素早く動き出す。
「目的地はどこですか?」
ただの散歩に目的地もあったもんじゃない。
「うーん、気晴らしに歩こうと思って……。お勧めコー-スある?」
私は対応してくれているお姉さんに聞いた。
「この時期ですと、プランBがお勧めです。どこか飲食店に寄りますか?」
「いえ、歩くだけです」
「分かりました。それでは護衛に名うての騎士2名を付けましょう」
そう言ってお姉さんが取り出したのは「外出許可証」だった。
国王の場合だとこう簡単にはいかないが、私みたいな味噌っかすなら比較的簡単に外出許可証を発行してくれる。これが無いと城門で止められてしまうのだ。
「では、いってらっしゃいませ」
お姉さんの声に送られ、私は城門に向かった。そこにはすでに2人の騎士がフル武装で待機している。しかも最敬礼だ。
「お待ちしておりました。外出許可証をご呈示願いますか」
門番がそう言った。
「はいこれです」
私は渡されたばかりの許可証を提示し城門を潜った。すぐ後ろに騎士が付く。城下町は相変わらず賑やかである。しかし、買い食いは出来ない。なんか悲しい。
そのまましばらく進むと、城下町と外を隔てる巨大な街壁とその門が見えてきた。街の出入りには当然通行税が掛かるが王族である私はフリーパス。最優先通行のおまけ付きだ。
プランBに従い、私は街の脇を流れる川の土手に昇った。名は知らないが綺麗な花が咲き何とも気分がいい。
ちなみに、背後の騎士は何も言わない。存在をなるべく消すための配慮である。甲冑がガチャガチャいうのであまり意味ないが。
プランBの折り返し地点にきた時だった。騎士の1人が突然剣を抜いた。そして、もう1人が対応する間もなく私を正面から袈裟懸けに斬った。パッと私の血が飛び散る。
「このよそ者が!!」
さらに追い打ちを掛けるべく、その騎士はさらに一太刀入れてきた。私は知った、斬られた直後は痛くないと。
ここに来て、ようやくもう1人が動き激しい剣のやりとりが続く。私はその間に魔法で緊急信号の光球を上げた。次いで、自分で自分に回復魔法を掛けたが血が止まる気配がない。
それから間もなく緊急出動してきた騎士団により、私を斬った騎士はその場で首を跳ねられた。
「おい、早く魔法医の所へ!!」
騎士団長が叫び、私は即席の担架に乗せられて運ばれていく。薄れゆく意識の中で私は思った。こんなことなら、存分に買い食いしておけば良かったと。
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