第29話 帰還

「ふぅ、着いたわね」

 久々の都会、久々のサロメテ王国である。

 私はジーンと共に馬車に乗っていた。港から城までは10分くらいである。

「さすがにちょっと疲れが……」

 馬車の座席に座りながら、私は誰ともなく呟いた。

「寄りかかりなよ。遠慮している方がおかしいじゃん」

 そういって、ジーンは私側の座席に移動した。その彼に寄りかかり私は一息つく。

 こうしていると、なにかホッとする。お姉さんだってたまには休憩が必要だ。

「アリシア、前も聞いたけど僕のこと好き?」

 ……だから、男のダサいセリフなんだって。それ。

「いちいち確認しなきゃ分からない?」

 私はあえて意地悪な返答した。

「分からないから聞いているんだよ」

 少し不機嫌そうに答えるジーンがちょっと可愛い。

「もう少し大人になったら、自然と分かるわよ」

 私はそう言って返事をはぐらかした。実のところ、私にもよくわからない。少なくとも、まだ恋愛には至らないだろう。それだけは確かだ。

「また子供扱いして……」

 ブチブチ言い始めたジーンの頬にそっとキスした。これで黙るだろう。

「久々だね。キス」

 私の予想外の事が起きた。私の顔を手でそっと向きを変え、いきなり強烈なディープ・キスをかましてきたのだ。

 慌てて顔を離そうとしたが、ジーンは許してくれなかった。

 ……こ、こら、やり過ぎ。呼吸が!!

「僕だっていつまでも子供じゃないんだよ」

 やっと開放してくれたジーンは、そう言って小さく笑った。

「まだ、甘いわよ。大人のキスはこうだ!!」

 私はジーンにキスを返す。舌使いがポイントなのよ。やれば良いっていうものじゃない。って、実践はこれが初めてだけどね。

 ……悪かったわね。モテなくて。

 その時、馬車のドアが開いた。げっ!?

「あ、申し訳ありません!!」

 御者が慌ててドアを閉める。

「……」

「……」

 私とジーンは飛び退くように離れ、そのまま無言になる。これほど恥ずかしい事は滅多にない。そして、そっと馬車のドアをそっと開けた。

 目の前には、巨大なサロメテの城。いつの間に着いたんだ。

「ジーン、今よ!!」

 馬車の周りに誰もいないことを確認すると、私とジーンは一気に城に駆け込んだ。

「ふぅ、びっくりした」

「僕もだよ。気がつかなかった」

 お互いに息を整え、そして笑った。たかがキス。されどキス。見られるとやはり恥ずかしい。

「アリシア、僕の部屋に来る?」

 ジーンがそう言う。

「ええ、行くわ。寝ちゃうかもしれないけどね」

 そう言って、私は小さく笑みを浮かべたのだった。

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