第28話 旅は続く

 出航28日目。私たちはちょっとした嵐に遭った。

 この船には最新鋭の装備があり、名前は忘れたがとにかく波による揺れをなるべく打ち消す装置がついているのだが、それでもなかなか揺れる揺れる。

「この船大丈夫よね?」

 元々船に慣れていない私は、なんとなくジーンに聞いた。

「あれ、怖いの?」

 ジーンがニヤニヤと笑みを浮かべながら、私に言ってきた。

「こ、怖くなんかないわよ!!」

 叫んだ瞬間、船に雷が直撃したらしく轟音と共に船内の明かりが消えた。

「きゃあ!!」

 思わず叫んでしまう私。

「大丈夫。そう簡単に沈んだりはしないよ。それにしても、怖がるアリシアなんて初めて見たなぁ」

 楽しそうにジーンが言う。

 ……くぅ、むかつく!!

「そりゃ私だって怖いものはあるわよ。雷とか毛虫とか……」

 田舎育ちとはいえ毛虫は天敵だ。1度刺されて以来トラウマになっている。

「大丈夫だよ。アリシアは僕が守るから……なるべく」

 ……なるべくって。まあ、正直でいいがかっこつけろっての!!

 そのとき船がいきなり大きく揺れ、窓際にいたジーンが矢のごとくベッドに座っている私に向かってすっ飛んできた。

「おっと!?」

 私は避けた。容赦なく。

 ゴン!! ともの凄い音を立ててジーンが壁にぶち当たった。

 薄情と言うなかれ、私だって痛いのは嫌だ。

 ジーンはそのままベッドに落ち、ピクリとも動かない。

 ……あれ、死んだか?

 などと思った時、ジーンが飛び跳ねるように起きた。

「アリシアー、受け止めてくれよぉ」

 泣きながらジーンが私に抱きついてきた。

「嫌よ。痛いの嫌いだもん」

 私は即座にそう言った。

「酷い……」

 そして、ジーンは泣いた。

 あーあ、またこれか。お姉さん大変だわ。

「前も言ったけど、男がピーピー泣くもんじゃないわ。我慢しなさい」

 なんかもう、お姉さんを通り越えてお母さんである。

「ううう、男って辛い……」

 うむ、分かればよろしい。

 再び雷が鳴った時、船の明かりが戻った。

 すると、ジーンの頭に巨大なコブが出来ている。

「あーあ、ちょっとこっち来なさい」

 ジーンの体を引き寄せ、私は回復魔法を使った。

 すると、見る間にコブが治った。

「あれ、痛くない?」

 自分の頭をわさわさ触りながら、ジーンが不思議そうな声を上げた。

「何したの?」

 ジーンが不思議そうに聞いて来た。

「内緒。危ないからベッドに入っていれば?」

 私がそう言うと、ジーンは頷いてベッドに潜り込んだ。私はその体にそっと手を乗せる。

「「睡眠」」

 私はジーンにそっと睡眠の魔法をかけた。途端に寝息を立て始める。

 これでよし。茶化される事もない。

 かくして、私たちの船旅は続く。

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