第25話 温泉着と合流
約半日掛けて、私たちは温泉へと到着した。
ひなびた温泉街に馬車の隊列などきたものだから、まばらにいる温泉客が何事かとこちらを見ている。
馬車のドアを開けると、途端に卵の腐ったような匂いが立ちこめて来る。
「うわっ、凄い独特な匂いだね」
慣れていないジーンが声を上げる。
「大丈夫。体に影響があるほど毒は無いから。さっ、降りましょう」
ジーンに続いて私は馬車から降りる。強い硫黄の匂いが懐かしい。
「おう、来たか。ここの湯はなかなかいいぞ」
さっそく、サロメテ国王様の登場だ。
「アリシアよ。わしは初日に見たぞ。凄いだろう」
国王がそう言って胸を張った。
「それは幸運ですね。何十回来ても見られない人もいるのに」
私は素直に驚いた。この温泉に来て1回でアレを見られるとは……。
「アリシア、何が見えるの?」
ジーンが聞いて来た。当然だ。
私は国王とちらりと視線を合わせ、一言で片付けた。
『秘密』
瞬間、ジーンの頬がぷくっと膨らむ。
「なんだよ2人して。ケチ!!」
……あっ、いじけた。
「実際に見るまで秘密の方が楽しみでしょ。ほら、そんな顔してないで宿……あっ」
そういえば、宿の確保をしていなかった。
まあ、この時期は人が少ないのでどこでも取れると思うが、ここで国王が再登場した。
「任せろ。わしたちが宿泊している宿に、ちゃんとお前達の部屋も確保してある。どうせいちゃついて忘れると思っていたからの」
そう言って国王がニヤリと笑う。
……このスケベジジイめ。
ともあれ、そういうことであれば話は早い。
私たちは国王の宿泊している宿へと向かった。
「おう、戻ったぞ」
宿に入るとフロントで声を掛ける。
「お帰りなさいませ。あら、こちらがお話頂いていた新婚様ですね」
出てきた女将さんがそう言って微笑む。
「新婚」という言葉がなにかむず痒いわたし。
「お部屋の鍵はこちらになります」
渡された鍵は204号室。2階か……。
「ほら、ジーン。いつまでも膨れてないで行くわよ」
私は動こうとしないジーンを2階まで強引に引っ張り上げ自分たちの部屋に入った。
「ふぅ……」
とりあえず一息つく私。
「ねぇ、何が見えるの?」
ジーンもなかなか粘る。
「明日の朝のお楽しみよ。夜明け前から行くから、そのつもりでね」
私がそう言うと、ジーンはやっと機嫌を直した。
「そんなに早く行くの?」
ジーンが聞いて来る。
「そう、朝早くないと見られないのよ。だから、今日は早く寝ないとね」
そう言うと、ジーンはちょっと寂しそうな顔をした。
「えー、せっかくアリシアと楽しもうと思っていたのに」
……なにを楽しむんだ。全く。
「帰りの船で楽しめるから、今日は我慢しなさい」
「はーい」
不承不承という感じで答えるジーン。
全くもってお姉さんである。嫁要素が低すぎて困る。
「さてと、まだ日があるし、散歩でもしようか」
私が提案すると、ジーンの顔が輝いた。
「うん、行く!!」
ようやく落ち着いたなぁという感じである。
それにしても、この嫁要素の少なさはどうにかしなければならない。
もう他に道はないのだから。
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