第24話 温泉へ

 朝食も食べいよいよ起動。荷物はすでに荷馬車の中。あとは私たちが馬車に乗れば出発だ。

「とーさん、じゃなかった父上。大変お世話になりました」

 私は頭を下げる。ここからはサロメテの王族である。

「なに気にするな。またいつでもくるがいい」

 暢気にとーさんがそう言う。気がついていないっぽいが、それは嫁いだ娘に言うセリフではない。

「国王陛下、大変お世話になりました。あの庭は貴重です。どこからも攻められぬよう、我が父に不可侵条約と安全保障条約の締結を進言させて頂きます。

 ジーンがそう言うと、とーさんは小さく笑ってどこに持っていたのか書簡を見せた。

「ジーン殿、心配には及びませぬ。お父上とすでに条約を交わしております。なんでも、この温泉は世界の宝じゃ。侵すものは万死に値するとかで……。この国にも駐屯地を作って兵10万を常駐させるとか。さすがに大国は違いますな」

 そう言って笑うとーさん。ジーンもさすがに驚いたようでぽかんとしている。

 ……早い。動きが早すぎる。

 しかし、このことがきっかけで他国に目をつけられ「中庭戦争」と「温泉戦争」が勃発するのだが、それはまたあとの話である。

「で、では、我々はそろそろ出発します。お世話になりました」

 ようやく帰って来たジーンがそう言って一礼する。

「なんの気にしないでくれ」

 と、とーさんがのんきな口調で返す。

「では、失礼します」

 ジーンに促され私は馬車に乗った。次いでジーンが乗ると、馬車がガタガタ動き出す。

「どう、我が家は?」

 私はジーンにそう言って笑った。

「中庭だけじゃないね。全てが良かったよ。特に湯浴みの時のお姉さんなんて……」

 私は何も考えず右ストレートをジーンに打ち込んでいた。こういうのは遺伝するのか。「全く、あなたの父上じゃないんだから……」

「冗談だったのに痛いよ」

 ジーンが半泣きで言って来た。

「変な冗談言う方が悪い……。まあ、ボロいし狭いしサロメテの城と比較されちゃうと困るけどね」

 私はそう言って笑った。

「そんなことはないよ。アットホームで良かったと思うよ。そういえば、王妃様の姿が見えなかったかったけど……」

 ジーンが言うと、私は嘆息した。

「いつ言われるかなと思っていたんだけど、私を産んですぐに亡くなっちゃったみたいなの。だから、王妃は不在なのよ」

 私がそう言うと、ジーンはハッとした表情を浮かべた。

「ごめん、変なこと聞いちゃった」

「いいのよ、いつかバレる事だし。だから、男の子も女の子もみんな男っぽくなっちゃって」

 私は笑った。ここで暗くなってはいけない。

「そうなんだ。アリシアは女の子だよ。時々怖いことするけど」

 ジーンはそう言って笑った。

「そういえば、ずっと気になっていたんだけど、なんで世界一の温泉なの?」

 ジーンが不思議そうに聞いた。

「それはね。行けば分かるわよ。ちょっと運が必要だけどね」

 そう言って私は小さく笑みを浮かべたのだった。

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