第21話 アリシアの悩み
次の日もジーンの筋肉痛が治らず、また特に行きたいところもないので、城でウダウダしていた。
ここは私が過ごした「家」だけに、色々と秘密の通路や場所は熟知している。
痛む体で無理矢理付いてこようとしたジーンを説き伏せて、私は尖塔の屋根に登っていた。1人になるには良い場所である。
ジーンの想いをあれだけストレートにぶつけられたので、私の方も引っ張られてしまった。頭を冷やしたい。
私は元々結婚願望などなかった。王族であるがゆえか、24にもなってまともな恋愛経験もない。それがいきなり異国の王子との結婚である。正直、まだ頭が付いていかない。
好きという言葉は実に曖昧である。これほど曖昧な言葉が他にあるだろうか?
私はジーンの事は好きだがいわゆる恋愛感情はほとんどない。しかし、ジーンは私がいなければ生きてけないとまで言ってくれた。
「はぁ……」
思わずため息をついてしまう。これで何回目だろうか。
いっそ、ジーンがとりつく島もないくらい私に愛情を向けてくれない人だったら、こんな悩みはなかっただろう。ただお飾りで結婚し、お飾りで城にいればいいだけだ。
それが真逆なのである。私だってジーンの想いに答えたいが、どうしても「お姉さん」になってしまう。それが問題なのだ。
これは対等に見ていない証拠。その理由は色々あるが、ジーンがまだ子供過ぎるのが1番大きい。全く、なんて結婚を仕組んでくれたんだ……。
とーさんの顔面をぶん殴ってやりたいところだが、その前に朝ご飯が出来たらしい。どこかで呼ぶ声が聞こえる。
「まっ、恋愛沙汰なんて考えても答えなんて出ないんだけどね。考えるな、感じろ~なんちってね」
私はそっと立ち上がると、城の中に戻ろうとした。瞬間、足下が滑った。
「ほえ!?」
ヤバい。ここから落ちたら確実に死ぬ!!
「アリシア!!」
完全に態勢を崩していた私の手をひっつかんで城内に力一杯引き込んでくれたのは、他でもないジーンだった。
「こんな所で何やってるんだよ!!」
彼にしては珍しく……いや、初めて本気で怒っている。
「どうしてここが?」
この尖塔までは、結構複雑な通路を通らなければならない。長く勤めている使用人くらいしか分からないだろう。
「そんな事どうでもいいだろ。なんであんな危ない事するんだ!!」
うわぁ、男の子って子供でも本気で怒ると迫力がある。あれっ、自然と涙が出てきた。
「私だってちょっと1人になりたいときがあるのよ。分かる!?」
思わず感情的になってしまい、怒鳴ってしまった。
「だからって、あんな場所に行かなくたっていいだろう。落ちたらどうするつもりだったんだ!!」
怒鳴る彼の目に涙が浮かんでいるのを見て、私の頭は急速冷凍。
……いかん。ここは冷静に。
「……ごめん」
私はそれだけ言った。
「ごめんじゃないよ。もしアリシアがいなくなったら生きていきていけない。言ったでしょ!?」
まだ止まらないジーンが怒鳴る。
「うん」
またも私は短く返した。今の彼になにを言い返しても無益なケンカになるだけだ。
「間に合ったから良かったけど、次やったら鎖で繋いじゃうよ。本当に」
「はいはい」
若干クールダウンした彼にそう言って、私は心の中で嘆息した。
……誰のせいでこうなったと思っているのよ。
こうして、私たちの新婚旅行の朝は始まったのだった。
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