第20話 またちょっと前進?
「もう、情けないわねぇ」
私がこれ以上はない敗北感を味わった芋掘りの翌日、ジーンは動けなかった。全身筋肉痛で。
「うー」
なにをしゃべりかけても唸ってばかりだ。
実は回復魔法ですぐ治せるのだが、私はあえてやらなかった。
本当の農業体験は終わってからなのだ。この筋肉痛こそ労働の証。これでこそ農民の気持ちが分かるというものである。
「まあ、今日は部屋でゆっくりしましょうか。あとは温泉くらいしかないし」
つくづく、なにもない国である。観光名所の1つでもあれば案内するのだが、どのみちジーンがこの状態では動けないだろう。
「いやホント、農民は凄い。国の宝だよ」
ジーンがそんな事を呟く。城にいたら気づかない事がこの世にはたくさんある。その1つが分かっただけでも収穫だろう。
「なに、今頃気がついたの?」
私はあえて意地悪にそう言った。
「うーん、そう言われるとなんか悔しい」
……うむ、正直でよろしい。
「そういえば、今日はどうするの?」
ジーンが聞いて来た。
「どうもしないわよ。今日は休憩日。まだ時間はあるんだし、ゆっくりしましょう」
新婚旅行の予定期間は10日ある。まだ3日目にして、早くも行くところがないという状況だがまあ、なんとかなるだろう。
「じゃあゆっくりしよう。添い寝して」
ジーンからリクエストが来た。
「分かった分かった」
思わず苦笑しつつ私は彼が死んでいるベッドに座り、彼と向かい合うようにして寝た。
「あのさ、ずっと気になっていたんだけど、僕のこと好き?」
……うわ、ダサい男が言うセリフのトップクラスだ。
しかし、ジーンは真剣そのものの表情だ。茶化さない方がいいだろう。
「逆に聞くけど、私があなたの事を好きだって思える自信がある?」
私はわざと意地悪に聞き返した。
「うーん、分からない。嫌われてはいないと思うけど……」
……またダサい答えを。
「政略結婚で嫁いだとはいえあなたの事は好きよ。でも、それはなんていうかお姉さんとしてかな。隠さないで言うと、まだはっきりと恋愛対象にはならないわね」
嘘をいってもどうしょうもない。私は素直にそう言った。
「やっぱり……。でも、僕はアリシアの事が好き。誰にも渡したくないくらい好き。アリシアなしで生きて行く自信ないよ」
ジーンはそう言って泣き出した。
……あーあ。私照れてます。はい。
そんなセリフ恥じらいもなく言うかね。
「あ、ありがとう。そこまで想ってもらえると嬉しいわ」
返答に困ったわたしは、そう返すのが精一杯だった。
「ほら、男の子は泣かないの。泣いていいのは、アソコを蹴られた時と母親が亡くなった時だけよ」
とりあえず泣かれると困る。私はそう言ったが泣き止む気配はない。
「僕、悔しいんだ。こんなに好きなのに振り向いて貰えないなんて。婚姻の義はやったけど、あんなの形式だけだし」
……うーん、困った。
全く振り向いていないわけではないが、なんというか、その前にお姉さんスイッチが入ってしまうのだ。これだけ率直に物事を言ってくるのはありがたいのだが、かえって困ってしまう。
……うー、相手は10代前半。この年の差恋愛は過酷だわ。
「分かった。好きなだけ泣きなさい。私が全部受け止めてあげるから」
そう言って、わたしはジーンを抱きしめた。途端に大泣きするジーン。
こうして、時間はゆっくり進んで行くのだった。
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