第15話 楽しい船旅

  さすがというか、サロメテ王国の王族専用船はメチャメチャ豪華だった。

 しかも一般的な帆船ではなく、最近開発された機械で動く最新鋭の蒸気船である。

 王族船のやや後ろには護衛の巡洋艦が2隻付いているが、もちろんこちらも蒸気船である。

 船が初めてというジーンに付き合い、私たちはそれこそ船の端から端まで戦車でも発見出来そうな勢いで探索したが1週間で飽きた。

 って、なに言っているんだ私……。

 まあ、そんなわけで、私たちは船室で談笑していた。

「ねぇ、イタズラってなにするの? セフェム王国につけば出来るんでしょ?」

 ……うっ。それは。

「企業秘密よ。知ったら戻れなくなる」

 やろうと思えばどこだってイタズラなんて出来るのだが、ジーンはそれをセフェム王国の郷土文化だと思っているらしい。まあいいけど。

「なんだよケチ」

 頬をぷくっと膨らませるジーンは可愛いが、大人として教えちゃいけない事もある。

「そんな顔したってだーめ」

 そう言って、私はジーンにデコピンした。

「痛い!!」

 ジーンが頭を抱えてうずくまる。最近デコピンばっかりやってるせいか、どうも破壊力が上がっているらしい。

「大丈夫?」

 自分でやっておいてなんだが、私はうずくまっているジーンの肩に手を当てた瞬間、凄まじい勢いで立ち上がったジーンは、これまた凄まじい勢いで私に口づけした。

「こ、このぉ!!」

 赤面しているのが自分でも分かる。とっ捕まえて尻でも叩いてやろうかと思ったが、ジーンの機動力は素晴らしい。私の手をひらひらかわしていく。

「アリシアの弱点だもんね。僕だって見てないわけじゃないんだよっと」

 ……このはな垂れガキンチョがぁ!!

「待ちやがれ!!」

 なんかもう王族もなにもない。私は全力で追いかけ回し、そして避けたジーンがサッと消えた先にはソファの背もたれがあった。

 ……あっ、ヤバい!! 気をつけよう。体は急に止まらない……ドン!!

 私は顔面からソファの背もたれに激突した。

「あっ、大丈夫!?」

 ジーンの声が聞こえた。

 鼻の奥がジンジンする。こりゃ鼻血ものだな。

「ねぇ、アリシア!?」

 ジーンが私の体に手を掛けた瞬間、私はその手をがしっと掴んだ。

「えっ?」

 ジーンが短い声を上げたが容赦しない。

「つーかーまーえーたー」

 私はソファの背もたれから顔を上げた。やはり鼻血が出ている。

「ぎゃあああ」

 よほど怖かったのだろう。ジーンが悲鳴を上げる。

「フフフ、どう料理してやろうかしらねぇ」

 ジーンの腕を背中で絞り上げると、私は耳元でそう呟いた。

「ぎゃああ、ごめんなさい。ごめんなさい」

 ついに泣き始めたジーンを私はそっと解放した……瞬間、彼は振り向きざまにまた私に口づけして逃げた。

「あはは、僕の演技も大したもんでしょ」

 もはや追いかける気力もなく、私はその場に崩れ落ちたのだった。

 ……これ、新婚旅行よね?

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