第14話 出発の日

 通常、セフェム大陸まで書簡を出すと速達便でも1ヶ月は掛かる。

 その間、私たちは旅支度に追われていた。

 今回はジーンも……というかジーンが主役なのだが、城を完全に開けるため、各地から「最強の事務官軍団」を集め王の代わりを務めるらしい。

 その他護衛の手配やらなにやら、やることはたくさんある。王族は大変だ。

 全ての準備が整い出発の準備が出来た頃、セフェム王国から私宛に書簡が届いた。

 中の手紙には一言こうあった。

『マジか?』

 マジです。しかも、今から出発します。

 私は手紙を炎の便利魔法で燃やし、届いていないことにした。

「いよいよアリシアの故郷が見られるんだな。楽しみ楽しみ」

 やたらお元気なのはジーンだ。そわそわと落ち着きが無い。

「そんなに良いところじゃないわよ。それより、忘れ物ない? ハンカチ持った?」

 私は苦笑しながら聞いた。まあ、持ち物といっても手元にあると便利なものだけで、他の荷物は全て荷馬車の中だ。

「じゃあ、行きますか」

 私が言うとジーンはうなずき、私たちは彼の部屋を出た。

 玄関前に行くと、そこには王妃様と国王殿下がいらっしゃった。

 王妃様は普通のドレス姿で国王殿下は滅多に見ない正装。一瞬誰だか分からなかった。

「おう、来たな。お前たちは先頭の馬車に乗るといい」

 国王様がそう言った。

「はい、分かりました」

 私は素直に答えた。異を唱える理由は無い。

「わしらは後方の馬車に乗る。あとは若い者同士で楽しむがよい」

 そう言ってニヤリと笑う国王。私は反射的に渾身の右ストレートを放ったのだが。

「甘いな。出直してまいれ」

 ニヤリと笑った国王様に簡単に受け止められてしまった。

 ……くそ!!

「さて、いきましょう。温泉なんて久々だから楽しみだわ」

 いつもは冷静な王妃様まで微妙に浮かれている。まあ、四六時中城にいるのだから、外出が嬉しいのは分かる。

「おう、そうじゃな。行くぞ!!」

 新婚旅行なのに国王様が音頭を取り、城の大扉が開いた。

 そこには馬車の隊列が待っていた。私とジーンが乗る馬車は先頭、次いで待っている馬車には国王様と王妃様。あとは荷馬車が5台だ。

 王家の紋章が刻まれた馬車に乗ると、私は1つ息をついた。ここから港まで出て、あとは船旅である。

 ジーンが乗り込むとしばらくして馬車が動き始めた。もう戻れない新婚旅行の始まりである。

「あれ、なんか顔色が悪いね。大丈夫?」

 向かいの席に座るジーンが聞いて来た。

「ああ、大丈夫。なんでもない」

 私はできる限りの笑みで答えた。

 もう2度と戻る事は無いと思っていた故郷。今、そこに向かっているのだ。それも、世界最大の国家として泣く子も黙るサロメテ王国の王族として。何の因果だろうか。

「僕、船に乗った事無いんだ。それも楽しみ」

 色々複雑だったが、脳天気なジーンを見ているうちにどうでも良くなった。

 さて、行くぞ。私は気持ちを切り替えたのだった。

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