第12話 国葬ってこんなだっけ?

 3ヶ月も過ぎた頃だろうか。国王が無事に帰還した。会ったことはないが、第一王子の棺を連れて。当然、国葬ということで当日は休みとなり、厳粛な葬儀が営まれた。……かと思いきや、ど派手な演出と超絶アップテンポな生演奏が流れる中、棺がそっと墓地に埋葬される。

「しけっぽい葬式は嫌いじゃ。派手に送ろうではないか」

 これが国王の弁である。なんというか、このイカれ具合が堪らなく癖になりそうで怖い。

「号砲用意。構え!!」

 一応、式次第通り進んで行く。が、号砲として用意されたのは、私の国では一般的なライフルでは無く巨大な大砲だった。それが7門、ギリギリと音を立てながら仰角をつけていく。

「てー!!」

 ズーンという派手な音と共に7門の大砲が一斉に火を噴く。……ん? 火を噴く??

 しばしの後、はるか遠くの住宅街が吹き飛んだ。大歓声が上がる。

「あ、あの空砲では……」

 国王に恐る恐る聞いた。

「空砲などつまらん。ノルは戦いに生きた男。やはり実弾でないとな」

 しれっと言う国王。やはりこの国はイカれている。

「てー!!」

 ズーン……。

 結局、号砲で撃ちまくられた住宅地はこの世から消滅した。

 なんでも、ちゃんと立て直しのために保証金が出るらしいのでまだ良いが。

 結局、よく分からない葬儀は滞り無く終了したのだった。


「ふぅ、やっと戻れた」

 国王代理の任を解かれ、普通の第五王子に戻ったジーンがため息をついた。

「お疲れさまでした」

 私はそう言ってジーンの頭を撫でた。

「あー、今子供扱いしたでしょ?」

 ジーンがブー垂れた。

「だって子供だもーん」

 私はそう言って笑った。

「だから、大人ってなんなの?」

 そう問いかけるジーン。

「そんな事聞いているうちは子供よ。自分で考えなさい」

 ようやく模範解答を見つけ出した私は、そう言って小さく笑う。

「なんだよそれ……」

 あーあ、いじけちゃった。

「そういうところが子供なの。周りの大人を参考にしてね、えっと国王様以外を」

 そう言って私は小さく笑みを浮かべた。

 ジーンはこうやって素の顔を見せるようになって来た。こちらの国に来てなんやかんやで1年近く。随分とガードが堅かった。

「そういえば、すっかり忘れていたけれど、新婚旅行に行ってなかったわね」

 私は話題を変えた。

「侵攻旅行?」

 ジーンが不思議そうに聞く。

「どこかに攻めこんでどうするのよ。新婚旅行。こっちの国じゃそういう風習があるかどうか分からないけど、私の国では新婚カップルは記念にどこかに旅行に行くのよ」

 私がそう言うと、ジーンの顔がハッとなった。

「僕の国にもあるよ。ごめん、すっかり忘れていた」

 なるほど、その辺りの風習は一緒らしい。

「よし、今からプラン考えて行こう!!」

 ジーンがやたらと明るくそう言った。

「ちょっと待って。さすがに今はまずいって」

 私は慌ててジーンを止めに掛かった。今さっき第一王子の葬儀を終えたばかりである。 それなのに新婚旅行に行ってきて来まーすなんて不謹慎にもほどがある。

「僕だって不謹慎なのは分かっているよ。だから行くんだよ。お父様も喜ぶ」

 ……あーそうだった。この国イカレていたわ。

「さっそくお父様の許可を取りに行こう!!」

「あっ、ちょっと待って!!」

 駆け出すジーンを私は慌てて追ったのだった。

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