第11話 国王代理とお姫様
私たちの生活はめっきり変わってしまった。王位継承権などほど遠い者同士のほほんとやっていたが、いまやジーンは国王代理として激務をこなしている。
私はといえば孤独だった。元々こっちの国に友人などいないし、ジーンがいるのでそれでいいと思っていたのだが、そのジーンがいなくなった。
「はぁ、なんでこの国に来ちゃったんだろう……」
自室の鏡台に向かって言うが、当然返答はしてくれない。
逃げだそうと思った事も何度かあったが、その時のジーンの様子を想像するととても出来るものではない。大体、右も左も分からない国でどこに逃げるのだ。
「耐える事も妻の役目か……」
そのとき、ノックもなくドアが開き、ジーンが転がり込んできた。目の下のクマが激務を物語っている。
「ごめん、寝かせて。これ以上は無理……」
それだけ言って、ジーンは倒れ込むようにして私のベッドに入ると程なくすやすやと寝息を立て始めた。
自分の部屋に帰った方が近いのに、わざわざ私の部屋に来るところがちょっと可愛い。
「さて、私も寝ようかな。もう夜遅いし」
部屋の時計を見ると深夜もいいところ。もう寝たって誰も文句は言わないだろう。
私は寝間着に着替え……困ってしまった。私のベッドはど真ん中に倒れ込んだジーンが占領している。
しょうがないので、私はイマイチボロいソファで寝る事にした。どこでも寝られるのが私の取り柄である。
うとうととしかけた時、ジーンのうなされる声が聞こえた。
「大丈夫?」
私は慌ててベッドに近寄り彼の手を取った。
すると、安心したかのように再びすやすやと寝息を立て始める。
手を離そうとしたのだが、本当に寝ているの? というくらい強い力で握られ離せない。
「ったく、しょうがないわね」
私はベッドに乗ると、狭い空間に無理矢理体をねじ込んだ。
狭っ、狭すぎる!!
これじゃ私がベッドから落っこちかねない。
「こ、これも妻の試練か……」
何か違う気もするが、そういう事にしておく。
慣れない国王代理を支えるのは私しかいない。これもそういう事にしておく。
「やれやれ、もうちょっと大人ならねぇ」
私は呟いて苦笑してしまった。実年齢の事ではない。中身の問題だ。
すでに婚礼の儀は済ませたが、気分は甘ったれ弟のお姉さんである。まあ、奥さんだという自覚はあるが、いわゆる恋愛感情があるかと言われると微妙だ。
「まあ、いいかお姉さんでも。そのうちジーンも大人になるでしょ」
私は呟いて手の紋章を見た。
「僕、やっぱりまだ子供?」
「ぬわぁ!?」
起きていたらしく、ジーンが眠そうにつぶやいた。
「えーっと、なんて言うか……」
これは困った。どう答えればいいのか。
「そうだよね。国王代理をやって分かったよ。誰も僕の言うことを聞かないし、やっているのは書類にサインするだけ。誰だって、子供の言うことなんか聞かないさ」
……いや、そういう事じゃないんだけど。
「あっ、違うって顔した。じゃあ、どういうこと?」
ここで子供には分からんよとは言えないし……。てか、私自慢のポーカーフェイスを見ぬくとはやるな。
「言葉で説明出来たらとっくにしているわよ。ただでさえ大変なんだから、もう寝なさい」
私は何とか誤魔化した。
「答えになってないよ。僕はどうすればいいの?」
今日のジーンは粘る。疲れているからだろうか?
「だから、うーん……「睡眠」!!」
私は反則技を使った。ジーンに「睡眠」の魔法を掛けたのだ。
その途端、ころりと落ちるジーン。心の中で「ごめんね」と呟いておく。
言われてみれば、男の大人ってなんだろう?
まっ、男なんていつまで経っても子供なんだけどね。
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