第9話 ちょっと距離縮まった?
「なんというか……」
せっせと腕立て伏せをしているジーンを見ながら、私は思わずため息をついてしまった。
私は紋章のある右手を見る。これはいわゆる結婚指輪にあたるものだと後で聞いた。
もちろんジーンの右手にも同じ紋章がある。
この国では離婚は認められていない。つまり、どうあろうと延々とジーンは私の夫である。例えそれがまだそれが学生で、私が鬼の腕立て伏せをやらせている相手でも。
「はい、あと10回!!」
「イエス・マム!!」
何かが違う。何かが違うがこれが現実だ。受け入れるしかないだろう。最初にそっとキスした彼はどこ行った?
「終わりました」
「よし、次は歴史!!」
私は歴史の勉強の指導を始めた。国が違えば歴史も違う。しかし、これは覚え教科だ。要点さえ押さえればとりあえず成績は良くなる。本当はこれじゃいけないのは分かっているけどね。
前にも言ったがジーンは決してバカではない。さすがにこれだけシメれば効果はあったようで、宿題の効率が飛躍的に向上している。その結果、夜2人でいられる時間がようやく増えて来た。そのほとんどが、ジーンのマッサージ時間に充てられているのは、ちょっと悲しいけどね。
「アリシア、毎晩ごめんね」
宿題を片付け、いつも通りマッサージをしていると、ジーンが急に言って来た。
……おや、珍しい。いつもくたばっているのに。
「気にしてないで。私は私のやるべき事をやっているだけだから」
私はジーンにそう返した。そのやるべき事が何か違う気もするが。
「今日はもうマッサージはいいよ。その代わり、そっちのソファに……」
言われるままに、私はソファに座った。すぐ隣にジーンが座る。
「どうしたの今日は?」
いつもと違うジーンの様子に、私はちょっと戸惑ってしまう。
「見ての通り私……僕はまだ子供です。正直、結婚など考えられなかった。アリシアもびっくりしたでしょ?」
ジーンが真顔で問いかけて来る。
「うーん、隠してもしょうがないか。正直驚いたわ」
私は正直に言った。結婚した今、不要な隠し事は不要だ。
「だと思った。僕も父上から聞いたときは、ついにとち狂ったのかと思ったくらいだから」
ジーンはそう言って笑った。
「あなたは不安じゃ無かった? どこの誰だか分からない相手と結婚なんて」
私は1番気になっていた事を聞いた。
「もちろん不安だったよ。怖い人が来たら嫌だったし」
そう言って、ジーンはそっと私に身を預けてくる。悪くはない。
「僕頑張って早く大人になるよ。アリシアに迷惑をかけないように」
嬉しい事言ってくれるじゃないの。お姉さん嬉しいわ。
「年齢は誰でも1年に1つ取るものよ。これは変えられないわ。中身は別だけどね」
「えっ、それどういう事?」
ジーンが頭だけこちらを向けて聞いて来た。
「大人になれば分かるわよ」
そう言って、私は彼の頬に軽く口づけしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます