第8話 よい子のお勉強

 ある日、私はジーンの部屋にいた。といっても、イチャイチャしていたわけではない。

 ジーンはまだ学生だったのだ。王国の方針で家庭教師ではなく、一般の学校へと通わせているらしい。まあ、それはいいのだが……。

「うーん、分からないかなぁ」

 私は宿題を前に頭を抱えるジーンにため息をついた。

 彼は基本的に頭が悪いわけではない。しかし、得意教科はサクサク吸収していくのだが、不得意教科は全然ダメなのだ。

「分からないものは、分からないよ」

 ジーンが机に突っ伏しながらぼやく。しかし、いくらぼやいたところで宿題がなくなるだけじゃない。

 なんだかもう家庭教師だ。しかし、旦那がヘボな成績というのは奥さんとしては頂けない。これは「鬼のアリアシア」復活かな。

「もう一回行くわね。ダメなら腕立て10回!!」

「えええー!?」

 なにかジーンからクレームが入るが無視。私は教科書を片手に再度解説に入る。

 結果……。

「うー、参りました」

 数分後、ジーンが根を上げた。

「はい、腕立て10回!!」

 手にした定規でバンとテーブルを叩き、私はジーンを睨み付ける。

「……はい」

 何を言っても無駄と察したか、ジーンは渋々腕立てを開始した。

 その間に、私はどうしたものかと考える。人に教えるのは大変なのだ。

「終わった……」

 ジーンが机に戻って来た。

「はい、もう一度行くわよ。次ダメならスクワット10回追加!!」

「うげっ!?」

 鬼嫁と呼ばれてもいい。私は完全にスイッチが入った。

「じゃあ、行くわよ」

 こうして私は宿題の解説を開始した。結局宿題が終わったのは、深夜に近い時間だった。


「じゃあ、行ってらっしゃい」

 翌朝、私はジーンに鞄を渡す。

「うぐぐ、筋肉痛が……」

 ちょっとシメすぎたかな。たった、腕立て10回30セット。スクワット10回10セットだっただけなんだけど……。

 まあ、私も王族だけどこの程度で根を上げているようじゃ、男としてどうかと思うのだけどなぁ。

「情けない事言ってないで行きなさい」

 そう言って肩をポンと叩く。

「ぎゃあああ」

 よほど痛かったらしい。こちらを振り向いて睨む目に涙が浮いている。

「はいはい、遅刻するわよ」

 なにかブツブツ言っているジーンを押し出し、私はため息をつく。

「さてと、侍女に掃除頼んでおくとして、私はちょっと寝るかな」

 なにせ寝たのが深夜なのでまだ眠い。

 私は部屋から出ると外で待機していた侍女たちに掃除を頼み、自分の部屋に戻ってベッドに突っ伏した。

 ……もしかして、これ毎日やるのかな。

 なんとなくうんざりしながら、私は夢の中へ落ちて言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る