第6話
狂った婚礼の儀が終わり、私は正式にサロメテ王家の人間となった。これまでお客様だったが今は違う。城内を歩く事も自由となった。
ある朝早く、ジーンの部屋に行ったが不在だった。ちょうど出会ったメイドさんに声を掛けたところ、丁寧な礼をしてから中庭にいるとの事。私は早速行ってみた。
すると……。
「風よ。我が力となれ!!」
ジーンが叫ぶが何も起こらない。
「肩に力が入り過ぎですよ。もっと落ち着いて精霊の力を読んで……」
恐らく先生と思われる人物が、静かにジーンにそう言う。
なるほど、魔法のお勉強か。先生の言う通りジーンはかなり力み過ぎている。これでは、微細な精霊の力を掴む事は出来ないだろう。
「ジーン」
私は彼に声を掛けた。すると、びっくりしたように彼は振り向く。
「これは恥ずかしい所を見せてしまいましたね。アリシア」
恐らくこれは万国共通だと思うが、簡単な生活魔法くらい使えて当たり前である。
魔法が使えないというのは、致命的に近い。
「いいのよ、焦らなくて。簡単な魔法からチャレンジしたらどう?」
ジーンが使おうとしていたのは攻撃魔法だ。さっき見ただけで生活魔法すらおぼつかない事くらいは見抜けるし、よりハードな攻撃魔法は難しいだろう。
「いや、それではお兄様たちにいつまでも追いつけません。早く攻撃魔法を……」
ごねるジーンに私はデコピンをした。
「だから焦らないの。まずは簡単なやつから。分かった?」
私がそう言うと、ジーンは不承不承頷いた。
「コホン」
すっかり存在を忘れていた先生が咳払いした。
「アリシア様、夫婦水入らずは後ほどにして頂けますか?」
この物言いに、なにかカチンときた。
「あっ、すみません。すぐに行きます。ちなみに、私にも教えて頂きたいのですが、風の攻撃魔法はこうですよね?」
私は初歩中の初歩の攻撃魔法を使った。暴風が吹き荒れ先生がどっかにぶっ飛んで行く。ざまぁみろ。
「アリシア、魔法使えるんですね!!」
目をきらきらさせながらジーンが言った。
「田舎では必須ですよ。この程度ならほとんどの人が使えます」
私は少し話しを盛った。攻撃魔法の習得は国王の許可がいる。使えるのは数人だ。
「決めた。明日から魔法の教師はアリシアです!!」
ジーンが拒否を許さぬ声で言う。
「いいですけど、私のシゴキは厳しいですよ?」
私は笑いながら私は返す。この「悪魔」の別名を持つ私に教えを請うとは。
「耐えてみせます。妻に負けているようでは、お兄様に追いつけない」
ジーンはそう言って苦笑した。
分かってないなぁ。最強の敵であり味方は「妻」なのに。
「そういえば、お兄様お兄様って、なにかトラウマでもあるの?」
聞いていいかなぁと思いつつ、私はジーンに聞いた。
「お兄様は皆国のために尽力しています。私だけ……」
そこで言葉を切るジーン。その顔には悔しさが浮かんでいる。
「何度も言うけど焦らないの。焦っても良いことはないから」
10かそこらの子に何が出来る?とはさすがに言わなかった。
「……そうですね」
それだけ言って、なんとジーンは私に抱きついてきた。こっそり泣いているのを、私は気づかないフリをした。男の子は大変である。
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