第4話 ファーストキスは顔面に
「ひ、広い……」
ジーンの部屋に案内された私は、思わず声を上げてしまった。国の父の部屋より広いかもしれない。
そこに並べられた家具は落ち着いたトーンで統一され、ジーン の性格を物語っていた。
「そうですか? この部屋は元々物置だったものらしいです。僕が生まれたので慌てて部屋に改装したとか……。まあ、末っ子なんてこんなものです」
ジーンは笑いながらお茶を持ってきた。
「このソファでいいですか?」
部屋の真ん中にはちょうど2人掛けのソファセットがおいてある。
「はい、わかりました」
私はソファに腰を下ろした。すぐ横にジーンが座り、お茶をテーブルに載せる。
……あー旦那様にお茶入れさせちゃった。気が利かないって思われたら嫌だな。利かないけどさ。
「今回は正直驚いてしまいました。いきなり父から嫁を取らせるなんて聞かされた時は、またいつものバカかと思いましたが、本当にこうしてアリシアが来た。まだ信じられません」
……ここで、相手がガキンチョだったと思わなかったとは言えない。
「私の方も急な話でしたよ。畑の用水路にイタズラしていたら急に連れ戻されて「縁談が決まった。支度しなさい」だもの。私もまだ実感がないというか……」
私の言葉を遮って、ジーンが私の手を握った。
「私はここにいます。アリシアも。そして明日正式に夫婦になる……ダメですね。やはり実感が湧かない」
ジーンは笑った。
「私も実感なんてないですよ。がさつだし永久独身かと思っていました」
私が笑いながらそう言うと、ジーンは首を横に振った。
「永久独身なんてとんでもない。こんな素敵な方は放っておかれるわけがない。私の所に来てくれて良かったと思ってます。お世辞ではなく本心ですよ」
私の顔を真顔で見ながらジーンはそう言った。
……よせ、マジ照れる。リア充爆ぜろ!! ってなに言ってるんだ。うわ、やめてくれ!!
私が次の句が告げないでいると、ジーンはそっと頬に口づけした。
……ぎゃぁぁぁ!?
「いわゆる「政略結婚」なのも分かっています。しかし、僕はそうは思っていません。一生をかけてアリシアを幸せにします」
ジーンがトドメを差してくれる。
あああああ、畑の用水路イタズラしてぇ。作物なんて全部枯れちまえバーロー!!
「あれ、僕変なこと言ってしまいましたか?」
心配そうにジーンが言った。私は首をぶんぶん横に振る。それが精一杯だった。
「良かったです……。あれ、そういえば顔が今にも破裂しそうに真っ赤ですね。すぐ医者を呼んできます!!」
鈍いのかなんなのか、ジーンがソファを立った瞬間、私はその手を取った。
「えっ!?」
一瞬ジーンが困った隙に、私はソファから立ち上がると放たれた矢のような勢いで思い切り口づけした。顔と顔がぶつかるゴチンという音がする。痛い!!
ほぼ反射的。一世一代のファースト・キスがこれだった。
「はぁ、やっと落ち着いたわ。って、ジーン大丈夫?」
今度はジーンがぶっ壊れた。ぽかんとした表情のまま固まってしまっている。
「ちょっとジーン。大丈夫!?」
……返事が無い。ただの屍のようだ。
「じゃない、ちょっと帰ってきてよ!!」
いくら体を揺さぶっても反応が無い。どうしようもないので、私は服の裾をたくし上げると彼を担いでベッドまで運んだ。
無力状態のジーンは重かったが、田舎王族のパワーをナメてはいけない。大根束100本くらい余裕で担げないようでは末っ子なんてやってられない。
「まったく、手が掛かるんだから」
固まったままのジーンをベッドに寝かせると、私はその傍らに座った。
こうして、その日の夜は過ぎていったのだった。
……あっ、もちろん変なことしてないよ。念のため。
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