第3話 国王と王妃

 城へと到着すると入り口で盛大な歓迎を受けた。

 私の国は世界的に見れば決して大国ではないが、1国の王族を招くとなればそれ相応の歓待を受けるものなのだろう。ありがたいが気恥ずかしくなってしまう。

 馬車のドアをが開くと、先にジーンが降りて私をエスコートしてくれる。私が馬車から降りると、歓待してくれている人たちのボルテージがマックスになった。だからやめてくれ……。

「さて、いきましょう。まずは父上と母上に挨拶しないと……」

 私の手を取ってジーンが城内に案内してくれるが、これすら気恥ずかしすぎる。

 広く豪華な城内を歩く事しばし、私は世界の半分を支配下におくという、このサロメテ王国の国王と王妃に謁見する事になる。

「サロメテ国王様、王妃様。このたびは……」

「ああ、堅苦しい挨拶は抜きじゃ。面倒くさい」

「こら、国王様」

 私の挨拶を遮って、国王がいい加減な事を言い、王妃に窘められる。……私、この国好きかもしれない。

「ああ、明日の婚儀じゃがの。派手かつ盛大にいくぞ。楽しみにしておるがよい」

 国王にそういわれ、私は「はぁ」と答えるしかなかった。王族の婚儀は通常手順に則った厳粛なものだ。

 それをどう派手かつ盛大に演出するのか、私には分からなかった。

「お父様の派手好きも困ったものですね……」

 なにか頭痛でもするかのように、ジーンがぼやく。

「当たり前じゃ。めでたい席であんな葬式みたいな事が出来るわけなかろう」

 葬式って……。まあ、確かに地味なんだけどさ。これは私が口を挟める話ではないけど、楽しみにしていいのか怖がっていいのか分からない。

「お父様、程々にしておいて下さいよ」

 ジーンがため息交じりにそう言うと、国王は大きく頷いた。

「おう、任せておけ。すでに全て手配済みだ」

 ダメだ会話が噛み合っていない。私にとっては義理の父になるわけだが、大丈夫だろうか……。

「父上、それでは私たちはこれで」

 ジーンがそう言って頭を下げる。

「おう、なんだもうイチャイチャか? チューとかしちゃうのか? ついでにヤッち……」

 瞬間、隣で静かに座っていた王妃が、笑顔のまま右フックを国王に命中させた。そのまま自らの血に沈む国王。おいおい!?

「だ、大丈夫ですか!?」

 私は声をかけずにはいられなかった。人として。

「大丈夫ですよ。いつもの事ですから。こんなバカ放っておいて、2人は2人の時間を過ごしなさい」 

 いつもの事って、さすが大国……関係ないか。

「では、私たちは失礼します」

 もう一度ジーンが礼をして、私たちはその場を辞した。

「申し訳ありません。父はいつもああいう感じでして……」

 通路を歩きながら、ジーンが謝ってきた。

「いいのよ、あのくらいの方がやりやすいし」

 私は思わず苦笑しながらそう言った。疲れがどっと湧いてくる。

「顔色が悪いですね。今晩の祭りは取りやめましょう。明日の最終日は花火も上がるのでその方が楽しいですよ」

 ジーンがそう言って来た。なんだか疲れたので、私に異存は無い。

「その代わり、今日は2人でゆっくり過ごしましょう。明日は婚礼の儀ですし」

 ジーンが上目遣いで聞いて来る。これに逆らえる者は、多分いないだろう。

「分かった。ちょっと疲れたしね」

 私がそういうとジーンは笑顔を浮かべた。

「では、私の部屋で。アリシアの部屋はまだ荷物の搬入や片付けが終わっていないでしょうから」

 ……そういえば、大量の荷物があったわね。

 あれをこの短時間で搬入出来たら、カリスマ引っ越し師だ。

 王族の夫婦は同じ部屋にいることがないが、今日くらいは良いだろう。

「分かりました。お邪魔します」

 私がそう言うとジーンは笑顔を浮かべた。

「まだ正式ではありませんが、あなたは私の妻です。邪魔なわけないです」

 言葉の綾なのだが、そこを指摘しても意味が無い。

 私たちはジーンの部屋に向かったのだった。

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