第2話 王城

「へぇ、これが城ね」

 さすがに世界最大の国というだけあって、馬車の窓から見える城も相応に荘厳で立派なものだった。私が住んでいた城とは規模が全然違う。

「この国が出来てから1000年、ずっと増築を重ねてこうなったんですよ」

 ジーンが向かいの席から解説してくれた。1000年か……。私の国は建国560年である。ここですら倍近い差がある。って、競っても仕方ないか。

 城下町に入った馬車の隊列は、広い通りを城に向けて進んで行く。ただでさえも目立つのに、先頭が王家の紋章入り馬車だけあってやたらと目立ってしまう。

「思い出しました。今夜は建国1000年記念の祭りです。お疲れとは思いますが、よろしかったら少しだけご一緒にどうですか?」

 ジーンが誘ってくれた。旅の疲れもあり休みたいところであるが、ちょうど気張らししたいところである。

「分かりました。ご一緒させて頂きます」

 私たち王族なのにいいのかなぁと思いつつ私は承諾した。

 ……まあ、実は良くなかったのだが、それは後の話。

「楽しくなって来ました。いつも城の中で退屈なんです」

 ジーンが屈託の無い笑みを浮かべた。いかん、恋愛というより母性みたいなものが……。

 本当に結婚するんだよね。私?

「分かります。私も城の中で退屈していて、時々城下に出てはイタズラしていたものです」

 これは王族で無ければ分からないだろう。城を出るにもいちいち警護が付くし、買い食いすら簡単には出来のだ。とにかく堅苦しくて仕方ないのである。

「イタズラですか。面白いですね。私もやってみたいです」

 目をきらきらさせてジーンが言う。ほら、そういう年頃なのだ。私も5、6年前なら「伝説を作るぜ!!」とかいう年頃だったのだが、さすがに22にもなってそんな事は出来ない。やったらイタ過ぎる。

「そのうち伝授しますよ。そういえば、ジーンって国王になりたいって考えたりしないの?」

 話題を変えるべく、私は違う話を振った。

「いえ、王位継承権は5番目ですし優れた兄がいますから。アリシアはやはり王妃になりたいのですか?」

 少し表情を暗くしてジーンが答えた。しまった、ネタを間違えた。

「ああ、そういうことじゃなくて、王族の男子なら1度は考えることかなって思っただけよ。私は王妃になんてなりたくないわ」

 王妃になんてなるものじゃない。父と母を見てそう思っている。行事だの何だの、休む暇も無い。

「良かったです。もしそう言われてしまうと、私は泣くしかありません」

 表情をパッと元に戻し、ジーンは笑った。実に表情豊かな子である。

 今のところ夫ではなく母親か友達。気づけば私の意識ではそんなところ。

 そして、馬車の隊列は城の門を潜ったのだった。

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