第2話 恐怖! 真夜中のメッセージ②

「あ、諦めたんでしょうか?」


 晴明が手に持つスマホをサキは横から恐る恐るのぞき込む。一同無言になり、静かな時間だけが過ぎていく。

 その空気に耐えられなくなっためぐるが「ねぇ晴明どうなったの――」と一番最初に口を開いた途端、


 ピロン


 新着のメッセージが届けられる。


『繝。繝ェ繝シ縺輔s:絶対ニ許サナイ』


 という一文だけが、それも絶対にありえないようなどす黒い赤色で書かれていた。

 その場にいた全員突然のことに驚き、後ずさる。流石の出来事に、ただでは終わらないだろうと身構えていた晴明でさえも驚きを隠せないでいた。


「相手にされないことの負け惜しみか、それともまだ何かあるんじゃろうか……」

「わからん、ただサキちゃんの家で何か異変が起きていると考えてもおかしくはないな」

「い、今から私の家に行くんですか?」


 サキは涙目になりながら嫌がるようなそぶりを見せる。何が起こるかもわからない状態なのでその反応は仕方がないともいえる。

 だが調べもせずにこのままにしておくわけにもいかない、晴明は強くうなずく。


「あぁ、だがこっちも手ぶらでノコノコ出ていくわけじゃない。全員外へ出てくれ。こいつを使って全員で行く」


 そう言って晴明は腰のポケットから一枚のお札を取り出す。Dタイザンを召喚するための札だ。


「Dタイザンか、それなら安心じゃな!」

「D、タイザン……? なんですそれ?」

「まあ見てなって。親父、使えるんだろ?」


 晴明が襖を開けると部屋に耳をそばだてて話を聞いていた両親は「わぁっ!」と驚いて、取り繕うようにニコォ……と笑う。

 そんなことを全く無視して彼は父親に詰め寄って尋ねる。


「どうなんだよ」

「バッチリだ、いつでも出られるぞ」

「ありがとう、よし行った行った」


 笑顔でサムズアップする父親その言葉だけ聞くと二人を両手でさっさと払いのけて全員室内から境内に出し、晴明はお札を頭上に掲げる。


召喚サモンッ! Dタイザァァァァンッ!!」


 建物の奥の方が眩く光り、巨大ロボ『Dタイザン』が姿を現す。それを見るやサキは口をポカンと大きく開けて呆然と眺める。胸のシャッター状のコクピットが開かれると、晴明たちに向けて一本の光が放たれ、四人を吸い込む。


「な、なんですか、これは!?」


 コクピットに着くとそれまで呆然としていたサキはハッと正気を取り戻し、平然とそれをシートに座る三人に尋ねる。


「こいつはDタイザン。巨大化する悪霊『ヘルガイスト』を倒すために作られた陰陽ロボだ」

「お、陰陽ロボ……。うわさでは聞いてましたが……」

「ね? 変わってるって言ったでしょ? ま、私も乗るのは初めてだけど」


 イマイチ状況がつかめない様子のサキを置いてけぼりにして晴明は脇にあるシフトレバーを操作する。


「Dフライヤー、ディフォーム!」


 Ⅾタイザンは大きくジャンプすると、みるみるうちに巨大な飛行機、いや戦闘機へと形を変える。サキの家の方向へのナビゲーションの打ち込みが完了し、Dフライヤーは飛び発つ。

 晴明の両親は手を振って彼らを見送ると二人とも大きなあくびをしながら家の中へと戻っていった。



 ☆☆☆☆☆



 サキの家の近くまで着くと、開けた場所にDフライヤーを着陸させて四人とも降り立つ。彼女の家に近づくほど晴明はピリピリとした嫌な気が強くなっていくのを感じる。

 夜の闇がかもし出しているのではない、不穏な空気。言うなればヘルガイストの発する邪念のようなものが渦巻いている。


(スマホやサキちゃん自身からは感じられなかった霊力があの家全体から感じられる。……それに霊が移動したという形跡も全くない)


 駅から家まで移動したと記されていたメッセージの内容と矛盾している。はなからような、結論を急ぐつもりはないがその考えが今のところ一番妥当だと晴明は考える。


 震える指で呼び鈴を押すサキ。

 だが、待てど暮らせど誰かが出てくる様子はない。家の明かりはついたままなので誰もいないわけではなければ、眠ってしまっているわけでもなさそうなはずなのに、物音ひとつしない。

 一行に動揺が走り、不安が限度に達したサキは彼女の持つ鍵を使って焦って玄関を開けようとするが晴明がそれを止め、その行動にめぐるは怒りと焦りの混じったような声で問い詰める。


「なんで止めるの? 早く入って確認しなきゃ!」

「まあまて、サキちゃんが鍵を開けるのを霊が待っているのかもしれない。ここは俺が変わ――」

「いや、もしかしたら強盗が入っておるかもしれんからの。こういう時はワシに任せてくれや」


 康作は食い気味にそういってサキから鍵を受け取り、ドアを開ける。リビングから漏れ出る光で少しだけ明るくなっており、玄関先から廊下の奥の扉まで見通すことができる。

 だがやはり不気味なほど物音がしない。康作の考える強盗がいるような雰囲気もしない。

 康作を先頭に晴明、サキ、めぐると順番に家へと上がる。廊下を歩き、リビングの前で足を止めて、康作はすりガラスの張られた扉越しに部屋の中を覗く。動くものがないことを確認した彼はドアノブに手をかざし、勢いよく扉を開く。

 そこには目を見張る光景がひろがっていた。

 サキの両親と思しき二人が床に倒れ伏せていたのだ。

 康作の後ろから覗き込んだサキは声にならない悲鳴を上げて体の力が抜けて倒れそうになる。めぐるがそれを受け止めて、晴明と康作に二人の様子を確認するよう促す。


「脈は……あるな。気を失っているだけだ。命に別状はない」

「こっちもじゃな。……気絶と言えばサキちゃんが最後のメッセージを見た時も気を失うって言っておったの」

「「「……ッ!」」」


 康作の一言に全員気づかされる。

 サキの言う状態がまさに目の前の彼女の両親に降りかかっているのだった。


「そうか、奴は、メリーさんとやらはサキちゃんがいない代わりに両親を身代わりにしたってことか」

「ひ、酷い……」


 めぐるに抱きかかえられたままサキは怒りをあらわにする。

 晴明も自らの作戦が失策だったと後悔しながら、この家から発せられる邪念やメッセージに込められた意味を頭の中で巡らせながら万感の思いを込めてこぶしを握った。

 四人は眠れぬ夜を過ごし、そして朝を迎えた……。



 ☆☆☆☆☆



「昨晩は完全に俺の判断ミスだ。ほんとにすまない」


 翌日の放課後、晴明は改めてサキに対して頭を下げる。

 軽率な考えで彼女の両親に危害を加える結果となってしまったことを悔いている。

 だがサキは「頭をあげてください!」とあたふた困り顔になる。


「もう一度だけチャンスをくれないか? 次こそは必ず何とかして見せる」

「いえ、こちらがお願いしてることですし……。むしろ色々と考えてくださって、こちらがお礼を言いたいぐらいなのですから、ぜひ晴明先輩のやりたいようにやっていただいても構いません!」


 サキは鼻息を鳴らしながら両腕でガッツポーズととる。晴明は「ありがとう」と礼を言って、今晩決行しようと考えている作戦を伝える。


「今日はサキちゃんの家で奴を待ち構えることにする。そして――」


 彼らの話し合いを榎戸は教室の外から眺め、せせら笑う。晴明に対して一杯食わせることができたことに満足がいったような表情をみせた。


「フン、晴明の奴め。自らの力を過信しすぎたようだな。そのまま吠え面をかき続けるといい」

『だが、あやつらは新しい作戦を練っているようだぞ。貴公も対策を講じておかねばならぬのではないか?』


 ジャシーンの心配する声に榎戸はチッチと指を振る。


「今回はある仕掛けを施しておいたのさ。人間の情のもろさを突いた仕掛けをね」

『ほぉ、流石は我が同志よ。その抜かりのなさにはつくづく敬服する。フフフフフ……』


 2人は怪しく笑い、その場から立ち去るようにして消える。晴明たちの作戦会議はまだまだ続いていたため、そこに誰がいたかなどと知る由もなかった。



 ☆☆☆☆☆



 その日の晩、サキの両親に事情を説明すると昨晩のこともあってかすんなりと受け入れてられ、家に上げてもらうことができた。

 近隣の住民がザワザワとするが、それも無理もない。高さ20数メートルもあるDタイザンが町内のど真ん中にドンと直立不動で立ち構えているからだ。

 中には観音様と勘違いして合掌する年寄りなどもおり、異様な光景だが、これもヘルガイストとすぐにでも戦うため備えているにすぎない。


「さて、今晩はこの家でメリーさんが現れるのを待つわけなんだがたぶん昨日の事を念頭に入れて狂暴化していると考えておいた方が良いな」

「狂暴化……」

「あれ、ところでばんちょーは?」


 不安がるサキを心配しているめぐるだったが康作の不在についてまるで今気が付いたかのような反応を見せる。


「あぁ、アイツなら今日は部活に行ってる。さすがに二日続けて休んだら丹生谷にぶや部長に何言われるか分からんってな」

「へぇ……、晴明は?」

「……察しろ」


 遠い目をする晴明に対してサキは「あわわわ……」と申し訳なさそうにする。

 めぐるも「アチャー……」と頭を抱える。


「それよりも解決を急がにゃならん。とりあえず外部から霊が侵入してこないようにここら一体に結界を張った。あとは夜になるのを待つだけだ」

「――外部から侵入してこないようにって、それじゃあメリーさんは現れないんじゃないの?」


 そんなめぐるの疑問には答えず晴明は立ち上がって部屋中を見回す。

 突然の行動にサキもめぐるも立ち上がって晴明の頭と目を抑える。


「ぐわぁーっ! 目は、目はやめろ!」

「せ、先輩!? そんなに部屋の中ジロジロと眺めないでください!」

「な、何してんのアンタ!?」

「イテテテテ! とりあえず離せ!」


 自分の行動が突然でかつ説明不足だったことを詫びた晴明はサキにとあることを尋ねる。


「いつもメッセージが送られてくるとき後ろを振り向くように指示されているんだろ? その時サキちゃんはどこを背にして立ってる?」

「えっと、――机の方に向いていることが多いですので背中はこっちを向いてますね」


 そう言って彼女が射した方向にはクローゼットがあった。

 晴明はサキに開けてもいいか聞くと、彼女は少し戸惑いながらも許可する。

 ガラリと開けられたクローゼットの中は女の子らしくきちんと整理されていて、これといって変わったところは見受けられない。

 だがサキだけは「あれ?」と、何かに反応を示す。彼女がクローゼットの奥に手を突っ込んで取り出したのはブロンドに青い目が美しい人形だった。

 随分とほこりまみれにはなっているが大切に保管されていたようで痛んだところや虫食いなどはない。


「この人形って……」


 ほこりを払いつつサキは懐かしむように人形を見つめる。

 すると突然、時間にもなっていないにもかかわらずサキのスマホにあのメッセージ通知が入る。

 その場にいる全員が一斉に画面を見る。


『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。とうとう見つかっちゃた』


「ど、どういうことなの?」

「……メリーさんの正体はサキちゃんがその手に持つ人形の事だったんだ」

「メリーさん……、そうだ、この子がメリーさんだ! じゃあずっとこの子は自分の存在に気づいてもらいたくて」


 サキは人形を大事そうにギュッと抱きしめる。いったいどれだけの間クローゼットの奥にしまわれていたのだろう。その長い年月止まっていた時間が動き出したかのようだった。

 そしてまたメッセージが一通送られてくる。











『繝。繝ェ繝シ縺輔s:でモ、許サなイカラ』


 突如として人形の中から半透明の腕が伸び、サキに襲い掛かる。晴明はとっさに形代かたしろを取り出しサキを人形から引き離す。


「形代、その腕を引っ張り出して外に出すんだ! Dタイザンで戦う!」


 晴明は窓を開けて形代たちに命令すると、彼らはこくりとうなずき人形の中からヘルガイスト部屋の外に引きずり出す。


「Dタイザァァァン!」


 晴明も窓からジャンプしてDタイザンを呼ぶ。コクピットを開いたDタイザンは彼を吸い込み、カメラアイを光らせてうなりを上げながら起動する。

 人形から出て来たヘルガイストは想像以上に強い霊力を放つ。それはヘルガイストを植え込まれた日数だけでなく、サキと離れ離れになった人形が積み重ねた年月を物語っていた。


「この世に未練を残し、人の思い出につけ込むヘルガイストめ、このDタイザンが胸の五芒星に代わって成仏させてくれる!」

『グルルルゥゥゥアァァァァ!!』


 Dタイザンにつかみかかってくるヘルガイスト、その叫びは悲鳴にも似た絶叫だった。だが晴明は容赦しない。ヘルガイストを引きはがしそのどてっ腹にケリを入れると、加えてDタイザンのつま先のハッチを開きトゥートップ・バルカンをお見舞いする。

 さらに苦しむようにもだえるヘルガイスト、サキは散々苦しめられてきたにも関わらずいたたまれない気持ちで見てしまう。



 ☆☆☆☆☆



『一方的にやられているようだが?』


 Dタイザンとヘルガイストの戦いを目の前にしてエレメント・ジャシーンはジロリと榎戸を睨みつける。だが彼は表情を崩さず「ここからだよ」と冷静に見守る。


 サキが握るスマホの通知音がなる。

 彼女は慌ててそれを確認するとメリーさんからのメッセージが入っていた。


『繝。繝ェ繝シ縺輔s:痛イよ……。痛イよ……。ヤメてヨ……』


 目の前でDタイザンと戦うメリーさんがサキに訴えかける。それを見た彼女は目を瞑り、少し考えたのち部屋を出て外へと飛び出した。


「何してんのサキ! 危ないわよ、戻って来なさい!」


 めぐるの声も耳に届かず、一心不乱にヘルガイストに向けて走る。

 そして、戦う二体の間に立ち、晴明に向かって叫ぶ。


「晴明先輩! やめてあげてください、この子……この子が苦しんでる!」

「サキちゃん、危ないからそこをどくんだ! 怪我じゃ済まんぞ!」

「メッセージが送られてきたんです! 痛いって!」

「メッセージ? あんにゃろ、情に訴えてきやがったか! 相手の思うつぼだ、そんなもの見ちゃいけない!」

「でも!」


 メリーさんからの『痛い』、『ヤメて』といった文字が繰り返して送られてくる。目の前の状況と合わさり、まるで本当にメリーさんが苦しんでいるかのような錯覚におちいる。サキの心をさらに痛めるには十分だった。

 サキがいることによって動きを止めざるを得ないDタイザンはヘルガイストになぶられる。

 それを見たジャシーンは嬉しそうに声を上げる。


『これは面白いではないか、水鏡! 人の持つやさしさにつけ込むとは』

「フフ、普段物言わぬから直接助けを求められれば人間は簡単に心が揺れる。それも愛着を持っていれば持っているほど思いは強くなる」

『人間の心の弱さを見事についた良い作戦だ』


 二人は今日こそ晴明の最後だと言わんばかりに一方的にやられるDタイザンを見届ける。

 だが誤算が生じた。

 何を思ったか、突然Dタイザンへの攻撃を止めたヘルガイストはサキを捕まえようとする。必死に逃げるも、抵抗虚しくいとも簡単に捕まってしまう。腕の中でおびえるサキをジーっと見つめるヘルガイスト。そのまま自身の体に寄せる。サキはあまりの恐怖にたちまち気を失ってしまう


「アイツ、サキちゃんを体に取り込もうとしてるのか!? ……ぐっ、攻撃しようにもあの子に怪我をさせてしまう! ……チェーン・シャクジョウ!」


 シャクジョウを構えてジリジリと近づき相手の出方をうかがう。だが、ヘルガイストはサキをギュッと抱きしめたまま微動だにしなくなる。

 その姿は先ほど彼女が人形を抱きしめた時の姿に酷似していた。


「なんだと! ヘルガイストがあんなことを!」

『奴が宿った先の持ち主を思う気持ちが勝ったとでもいうのか……?』


 榎戸もジャシーンも信じられないといった表情で目を見張る。晴明も目をこすり、呆然とするがフルフルと首を振る。


「恨みを越えて自ら浄化したお前をわざわざ退治する必要はなくなった。だが、その魂を安らかに眠らせなきゃならん。ここはおとなしくしておいてくれ」


 晴明の言葉にヘルガイストにもはや化物のようなおぞましい面影はなく、優しい顔で笑ったような気がした。

 シャクジョウをしまい、タイザンアミュレットを取り出し念を込める。


「現世の恨みを晴らした霊を安らかに眠らせたまえ。エクスペル・バーン」


 アミュレットから出た炎はヘルガイストを優しく包み、焼き尽くす。灰となって消えるアミュレットのむこうには地面に伏せるサキの姿があった。

 怪我一つなく、スヤスヤと安心しきって眠る彼女の姿が。


「僕の力もまだまだ及ばないということかな」

『いや、貴公は十分な力を有している。今度ばかりは運がなかった。しかし、深い恨みの裏には同じだけの深い愛情が込められていることがある、覚えておこう』


 榎戸とジャシーンは次なるヘルガイストの宿り先を探すためその場を後にする。



 ☆☆☆☆☆



「まさかそんなことになっとるとはのぉ」

「あぁ、ヘルガイストにも侵食されない強い思いがあの人形にはあったってことだな」

「なるほど。でもなんで家の中にヘルガイストがおるとわかったんじゃ」

「『帰って来て』って言うメッセージでピンと来たんだ。『戻って来て』じゃなく『帰って来て』。こんな言葉、よそもんが使うものじゃないと思ってな。それにあの家の外には霊力を感じなかったしな」

「ほーん、ちなみにその人形はどうしたんじゃ?」

「綺麗にしてベッドの横に置いてるってさ。昔親に買ってもらった大事なものだったんだが失くしてしまったらしく、いつの間にか忘れてしまったんだと。今度は失くさずに目に見えるところに置いておくとさ」


 弁当をつつきながら昨日その場にいなかった康作に事の顛末てんまつを話す。今回の一件で晴明にもいろいろと思うところがあった。


「しかし大変じゃのぉ、晴明」

「何がだよ?」


 康作がおかずの唐揚げを奪うのを阻止しながら彼の顔を見る。視線が晴明よりも上を向いており、何を見ているのかと振り向くと――、

 彼らの部長、丹生谷凌平がそれはもう満面の笑みを浮かべながら晴明の後ろに立っていた。

 言葉を失う晴明。

 凌平は目の奥が笑っていないにもかかわらず笑顔なのが恐ろしい。


「二日連続で部活をサボるたぁいい度胸じゃねぇか晴明」

「ぶ、部長! これには深いわけがあって……!」

「うむ、わかるぞ。だが俺も鬼じゃない、お前をねぎらって優しい俺からささやかなプレゼントだ」

「な、なんスか……?」


 顔を引きつらせながらも内心どこかで許してもらえるんじゃないかと考える晴明。


「今日から一週間! 練習の前に校庭100周だァーッ!」


 甘い考えであった。


「優しくねぇぇぇぇ!!」


 その日、晴明の絶叫が夕柳高校中にこだました。

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