第2話 恐怖! 真夜中のメッセージ①
『で、今回はどうするつもりだ?
水晶玉に映し出されたヘルガイストの王、ジャシーンが考えにふける
前回子どもの嫉妬心を用いて巨大な力を持つヘルガイストを生み出そうとしたがそれを
「ジャシーン、ヘルガイストは嫉妬心以外にどんなことでその力を増幅させられる?」
『ふむ……。例えば数年積み重ねた恨み、といったところだろうか。長い年月温め続けた恨みは瞬間的な嫉妬以上にマイナスの感情が働き、大きな力を得ることができる。しかしその代わりに嫉妬心以上に制御するのは難しいが、貴公になら使えよう』
「積み重ねた恨みか……。そうだ!」
それを聞いて何かピンときた榎戸、ジャシーンは『何か思いついたようだな』と彼を見る。
榎戸は水晶玉に手をかざすと何やら唱えだし、そこに自信の求める答えを占い、映し出す。水晶の中にボゥ、と現れたものをのぞき込む。
「強い恨みを持つものをこの水晶に引き合わせれば……ほら、南東の方角にいるとでた。――ん? これは……」
『ほぉ、これはなかなか面白い。さっそくこやつにふさわしい霊魂をヘルガイストに変える準備をしようではないか』
そういうとジャシーンは高笑いをしながら黒い炎のエレメントの姿となって榎戸の目の前に現れ、新たなヘルガイストを呼び出し始める。
☆☆☆☆☆
深夜0時を目前に控え、自室の勉強机に向かう少女がいた。別に彼女はこんな夜遅くまで熱心に勉強をしているわけではない。
机の上に置かれたスマートフォンを恐怖を含ませた目で睨み続ける。時針と分針そして秒針がきっかりと時計のてっぺんに位置する12の数字を指した瞬間、彼女のスマホはピロンと音を立てて画面を光らせる。
少女の体はその音ひどく怯え、小さく体を震わせながら恐る恐るスマホを手にする。
画面に表示された文字は彼女を恐怖へと陥れる。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、
文字化けした文字で書かれた相手から届いた一通のメッセージ。こう綴られた文章に少女は恐怖での顔を歪ませ、声にならない声を漏らしてスマホを落とす。画面の中には彼女の住む町にある駅名が表示されていた。
「な……んで……アカウントまで変えたのに……」
体の震えは次第に大きくなってくる。
床に落としたスマホは数分とたたずに再びピロンと音を鳴らしてメッセージが送られてくる。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、夕柳高校にいるの』
夕柳高校。彼女が通う学校だ。駅と自宅を挟んでちょうど中間に位置する。つまり文面から察するにこのメッセージを送ってくる相手は彼女の自宅に着実に近づいてきているのだ。
少女は一歩、また一歩と後ずさりをして背中をドンッ、とクローゼットにぶつけて、へたり込む。
ピロン
普段であれば何気ないはずの通知音が鳴るたび、自身の血の気が引いていく様子がわかる。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、あなたの家の前にいるの』
間髪入れずに次のメッセージが流れる。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、玄関に入ったわ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、階段を上っているの』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、あなたの部屋の前にいるの』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』
生唾を飲み込む音とともにギシリと何かがきしむ音が聞こえる。
空耳だろうか。いや、今の彼女にとってはそんなこと関係ない。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。どおして無視するの? こっちをみてよ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。さみしいわ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。早くこっちを向イテ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。ネェ、ドオシテ見テクレナイノ?』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。ネェ、見テヨ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:ネェッテバ』
叫びをあげながら手で顔を覆う、すると何かに力を加えられて操られるようにして無理やり後ろを振り向かさせられる。
恨めしそうに睨む眼と自身の眼が合い――
――いつものように意識を失う……。
☆☆☆☆☆
「――ということが最近ずっと起こってるんです、めぐる先輩!」
「そんなこと私に言われてもなぁ……。っていうか気を失うだけ?」
「あ……」
「あ?」
「頭を打ってたんこぶができたんです…」
涙目になりながら話す少女、
「まあ可愛い後輩のために何かをしてあげたいのはやまやまなんだけれども……。いたずらにしちゃ度が過ぎるよね」
「何ボケたこと言ってるんですか! こんなこといたずらじゃ絶対に出来ないです!」
「ボ、ボケ……」
サキは机越しにグイっと押し寄せてめぐるに顔を近づける。
「これは絶対に…絶対に心霊現象です、間違いありません! いたずらじゃありません!」
「心霊現象ねぇ……」
その手の話を聞くと、決まって晴明の顔が思い浮かぶ。先日もヘルガイストから弟を守ってもらっているので信頼に値する。
「何か考えてましたけど、心当たりはあるんですか?」
「ないことはないかな、晴明に相談してみようと思うんだけど」
「晴明ってあの野球部の
「そうそう、アイツの家は阿倍野神社っていうこの町じゃちょっとばかり名の知れた神社でさ。でね、アイツ自身悪霊の類のお祓いや退魔とかを主な生業にしてるいわゆる陰陽師なのよ」
「へぇ、全く知りませんでした」
「まぁ、かなり変わーったお祓い、というか除霊方法でね。晴明なら今回の件に関しても解決できるかも――」
そこまで言うと鼻息を鳴らしながらサキはめぐるの手を両手でがっしりと掴む。
そしてこれでもかと言わんばかりに目を見開いて、
「先輩!私をその阿倍野先輩に会わせてください!」
と懇願する。
若干めぐるはその勢いに押されつつも首をコクコクと縦に振り、承諾せざるを得なかった。昼休みの終わりを告げる予鈴が校内に鳴り響き、食堂からは人がわらわらと出ていく。
☆☆☆☆☆
「――ということでさ、その後輩を助けてほしいの」
「メリーさんねぇ、今どきよくもそんな古臭い手を使ってくるなぁ。いたずらなんじゃねぇのか?」
食堂から教室に戻っためぐるは早速晴明にサキの一件についてのあらましを話す。やはりというかなんというか彼の反応は予想通りのモノだった。
「あたしもいたずらなんじゃって思ったんだけれど、でも電源を切った状態から勝手につくなんておかしくない?」
「んー、その手の分野に詳しいわけじゃないんだが、ウイルスにかかってて勝手につくようにプログラミングされてるとかさ」
「じゃあ、機種を変えてもなるのは? 気絶する理由にもつながらないし……」
「……それもそうだな。まあせっかく相談されたんだ、可愛い後輩の為にも一肌脱いでやらんとな。放課後その子に会ってみるか」
「うん、よろしくぅ」
本鈴がなり、次の授業の教師が教室へと入って来たので彼女は急いで自分の席へと戻る。晴明が机の中から教科書を出していると何やら殺気を向ける視線を感じ取ったのでそちらを向くと康作が鬼の形相で睨んできていた。
(めぐるちゃんと何を楽しそうに話しとるんじゃあ、あいつはァ――!)
晴明は冷ややかな視線だけを送り、無視を決め込むことにした。
☆☆☆☆☆
「で、なんでお前までいるんだよ」
放課後。これから教室で待っているサキのもとへ行こうとすると、案の定康作が晴明とめぐるについて来た。
そして彼はさも当然のようにめぐるの横を並んで歩く。
「そりゃ決まっとろうが、めぐるちゃんの悩みはこのワシの悩み。ならばめぐるちゃんの後輩の悩みもこのワシの悩みということで共に解決しに行かにゃならんのじゃから」
「むちゃくちゃだなお前。てか練習に行けよ……」
「う~ん、……そうじゃ! ワシらはバッテリーなんじゃからお前がおらんと練習にならんからな!」
「アハハー。ばんちょーは今日もブチかましてるねぇ。お、着いたよ」
めぐるは康作の言葉を聞き流していると、目的の1年生の教室の前にやってきた。
ガラリとドアを開けると、教室の真ん中の机には腰まで伸びた髪にはかなげな表情が似合う少女が座っている。彼女は3人を見るやいな立ち上がって「お待ちしてました」といいながらお辞儀をして、教室内に招き入れる。
軽い自己紹介をしてから本題に移る。ただサキは晴明だけでなく
事情をすでに聞いていた晴明は例のメッセージが送られてくるというスマホを見せてもらうことにした。それからちょっとでも霊力が感じ取ることができれば解決の糸口に繋がるのでは、と考えたからだ。
しかしどれほどスマホを調べても、何も反応を示さない。
「繁岡さんからは全くもって霊の気配は感じないな。メッセージ自体も残っていないし」
「そうなんです。朝、目が覚めてスマホを確認するんですがメッセージもトークルームも跡形もなく消えてて……。あ、私の事はサキで構いません」
「じゃあ、サキちゃんって呼ばせてもらうよ。俺のことも晴明でいい。霊の力で夢を見させられている……ってのも考えたんだが、悪夢を見てるのなら少しでもサキちゃんの身体に霊力が残るはずなんだが、それすらも感じない」
「それってどういうこと?」
晴明の言葉にめぐるが質問をする。
「霊ってのは存在に気づいてもらうために訴えかけてくるケースがほとんどなんだ。それぞれに応じた足跡を残して振り向いてもらおうとする。だけどスマホにメッセージも残さない、サキちゃんに直接霊力をかけたわけでもないっていうのは相当レアなケースだ」
「でも、ほんとにいつも送られてくるんです! 信じてください、晴明先輩!」
それを聞いてますます不安になるサキは涙目になりながら晴明に訴えかける。めぐるも苦しむ後輩をみて何とかしてほしいという気持ちでいっぱいになる。
晴明は胸を張ってこたえる。
「もちろん信じるに決まってるだろ。とりあえず今晩から調査開始だ」
その言葉にそれまでずっと暗い表情だったサキはやっとパァッを明るい顔を見せた。だがそれまでの話を聞いていた康作は真剣な面持ちで晴明に尋ねる。
「しかし調査とは言ってもそれだけ形跡を残さないやつを相手にどうするんじゃ晴明?」
「そうだな、まずは安全地帯で様子をみよう」
「「「安全地帯?」」」
三人が小首をかしげる。晴明は人差し指を立てながら、ニンマリと笑う。
「そうだ。この後、俺の家。つまり阿倍野神社に全員で集合だ。今日の夜、その化け物のメッセージをこの目で確かめてやろう」
☆☆☆☆☆
「ハァ、ハァ……。あいかわらず神社に行くまでが一苦労ね……」
「そうか? 確かに毎日のぼってたら気にしないけど」
ふもとの鳥居をくぐり、阿倍野神社に通ずる石段を女子二人は肩で息しながら、男子二人は平地と変わらずスイスイとのぼっていく。
阿倍野神社は夕柳町のあたりを田んぼに囲まれた小高い山の頂上に位置しており、祭りでもなければ普段は人の出入りが少なく、そういった意味では少し神聖な雰囲気をかもし出していた。
「た、田端先輩も、すごいですね。顔色一つ変えない」
「ワシも良く運動がてらこの階段を使うからのぉ。ただ歩くだけならば疲れもせん」
「体力馬鹿どもめ……」
めぐるは恨めしそうに晴明と康作のうしろ姿を睨みつけながら一段一段踏みしめる。春先で穏やかな気候とはいえ、その暖かさが仇となり頂上に着くころにはめぐるもサキもびっしょりと汗をいていた。
晴明は「なんか冷たいモノでも持ってくるから」と言いながら客間に通すよう指示を出して康作に二人を任せる。
☆☆☆☆☆
一息つく二人にお茶を用意している間に康作が勝手に押し入れからアルバムを出してきて昔の写真を見せて笑い合ったり、なじみのあるめぐるだけでなく、初めて見るサキといった可愛い女の子を二人もつれてきたことに喜ぶ晴明の両親は迷惑がる息子を無視して構って来たり、いつもよりも豪勢なご飯をふるまおうとする。しかし、康作に対してはいつも顔を合わせているので二人とも「「あー……」」と反応が薄い。康作は「お前の両親はどういう教育を受け取るんじゃ!」と怒りを晴明にぶつけるため、彼の気苦労がよりいっそう増え続ける。
そんなこんなですっかりと夜はふけ、例のメッセージが送られてくる時間の五分前となった。部屋の時計の針の音がカッチカッチとやけに大きく聞こえる。全員が額に汗を垂らしながら机の上に置かれたサキのスマホに注目する。
「そろそろだな……」
一分が経ち、また一分が経ち、全ての針が12を指した瞬間。ピロンと言う電子音とともにスマホの画面がパッと明るくなる。
サキは「ヒッ」と怯えながらめぐるに抱きつく。表示された文字は彼女がいつも見てきたあの名前と文面だった。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、
「――これか。」
晴明はスマホを手に取る。だが案の定それからは何も感じることがない。唯一わかることは霊力を伝って外部デバイスから彼女のスマホにアクセスされているということだけだった。
少しの間をおいて次のメッセージが送られてくる。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、夕柳高校にいるの』
「ワシらの学校の前まで通っとるんかこいつは!?」
「ってことはこの時間帯いつもいつもあの道にいるってこと? こわッ!」
「そ、そうなりますよね」
めぐるが「うぇ~」と嫌そうな顔を見せながら自分の身体を両腕で抱きしめるようにして立ち上がる鳥肌をしずめるようにさする。
再び間を置き、三つ目のメッセージが届いた。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、あなたの家の前にいるの』
だが、今サキは晴明の神社に避難しているため家にはいない。もしかすれば悪霊自体が阿倍野神社に来ているかもしれないのだが、霊が無闇に入って来られないように結界が張られているのだ。
「来るなら来い……」
晴明の言葉に呼応するかのようにピロンピロンと連続して文章が送られてくる。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、玄関に入ったわ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、階段を上っているの』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。今、あなたの部屋の前にいるの』
その文章を見た瞬間。阿倍野神社に来ているわけではないことを察する。サキは恐怖のあまり体を震わせるだけでその事実に気づいていない。
「俺たちのもとには来ていないよ。ところでサキちゃん、いつもはこの後どんなメッセージが送られてくるんだ?」
「こ、この後ですか……? えっと――」
晴明の質問されたことで少し冷静さを取り戻したサキは空を見上げて記憶をたどるように思いだそうとする。
「――確か部屋の前に現れて、それで急に私の後ろにいるって送られてくるんです……。ドアも開けられていないのになぜか」
「ドアを開けることもなく後ろに……」
「おぉ……。ブキミとしか言いようがないのぉ……」
しばらくそんなやり取りをしていると、彼女が言ったものとは全く別のメッセージが送られてきた。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。ねぇ、どオしてあなたは部屋にイないの?』
「「「ッ!?」」」
「い、いつもと、違う文章……?」
「奴はやっぱりサキちゃんの部屋に来ていたんだ。一方的にメッセージを送ってくるだけだから今になって君がいないってことに気が付いたようだが」
サキが部屋にいないと分かった瞬間、まるで怒り荒れ狂ったかのように次々とメッセージが送られてくる。
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。どオしてイないノ? どコへいってシまっタの?』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:私メリーさん。ネェ、帰ッてキてヨ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:サみシイ』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:ネェ、ドオシテ?』
『繝。繝ェ繝シ縺輔s:ドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテドオシテ……』
ずっと同じ文字だけが画面に表示される。憎悪を込めたかのような、しかしどこか悲しさが混じっているような……そんな雰囲気も感じられる。晴明は先ほど送られたある一文が気になったままバイブレーションし続けるスマホを握りつづけ、画面から決して目をそらすことはなかった。
何通も何通も同じような文章が途切れることなく送られてきたのち、急にプツッと止まりスマホの画面は暗くなる。
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