核戦争後の地球。
最後の人間である少女と、心を持った機械の切ない恋を描いた短編。
自分以外の人間を知らず、生きる意味さえ見いだせない少女。
投げやりな彼女は従順な機械たちに当たり散らす。
けれど、そんな彼女を優しくたしなめるロボットが現れ……。
本作の見どころは、主人公である少女とその恋人となるロボットが、どちらも「人として」徐々に成長していく様子だ。
少女は生粋の人間だが、同族を一度も見たことがない。
もちろん私達のような社会を形成できず、ただセントラルコンピュータのプログラム通り育てられているだけ。
私は何の為に生きているのか。
人としての心や感情を持ちながら、その目的は空白のまま。
対するロボットは、ただ「種の保存」という目的のためだけに行動する。
そこに心や感情は無い。
セントラルコンピュータのプログラム通り少女を教育するだけ。
ちぐはぐな二人は、けれど互いの欠けたものを補い合える存在だった。
互いが互いに影響を与え、ある日ロボットはプログラムにない行動を採るようになる。
たとえロボットのルールから外れようと、少女のために正しい振る舞いをしたいと思ったから。
その真心を感じた少女も、彼に応え徐々に生きる目的を見出していく。
人間の恋人がそうであるように、二人は少しずつ成長しながら静かに愛を育んでいく。
しかし。
ここは核戦争後の地球。
唯一残された貴重な人間に、人間らしい選択肢など与えられない。
ただ「種の保存」を実行するため、やがてセントラルコンピュータは残酷な決断を迫る。
あらすじから見え隠れする不穏な空気と、そんな終末世界においてしっとり描かれる恋模様が胸を締め付けます。
個人的に最も切なかったのは、セントラルコンピュータという存在です。
ある種神のように振る舞いながらも、最も人間味のある存在に感じました。
そのどこか意地悪な態度や人間臭さは、人間への憧憬ゆえ。
きっと彼は、少女やロボット以上に人を求めたのでしょう。
切なく胸を抉る短編をありがとうございました。