第十話 個展の契約

 それから数日後に天本は竹本に連絡し、都合を合わせて竹本の自宅へと来ていた。

 三人は竹本の自宅のリビングにいた。個展の話を全て済ませた天本は、昼食もご馳走になっていた。

「今度こそ、天本さんに食べていただくことができて良かったです」

「この前はすみませんでした。どれもこれも、本当に美味しいです。竹本は本当に幸せだな」

「そうかぁ。俺はいつも食べてるから、わかんないな。美味しいけど」

 照れ隠しに、竹本はいつものように他人事みたいに言った。

克己かつきさん。たまには感謝してください」

「はいはい、いつもありがとうございます」

 こんなやりとりも天本はもう見慣れていた。

「さて、随分と長居してしまったな。そろそろ帰るよ」

「今日もわざわざ家に来てくれてありがとな」

「天本さん本当にありがとうございます。天本さんのおかげで克己さんが、ここまで来れました」

「いや、僕はほんの少し手伝っただけで元々、竹本には才能があったんです」

「そうだとしても、本当にありがとうございます」

 さとみは感謝してもしきれない、そういった表情で天本に本当に感謝しているようだった。

「しかしなー、本当にわからないもんだよな、天本」

「何がだ?」

「だって、本当にたまたま、天本はあのコンビニ寄っただけだろ? それだけで、俺の人生はまるっきり上向いたんだから」

「そうだな。あの日は本当に何にも考えず、一つ前の駅で降りただけだったからな……。くさいセリフだけど、運命ってやつじゃないかな」

 笑いながら天本は言った。それに釣られて、竹本もさとみも笑った。二人の笑顔は天本とは違い、とても嬉しそうで幸せそうだった。

「運命か……あるのかもな」

「あるのかもしれないですね」

 二人はそんな運命的な話を信じたわけじゃないが、どこか納得した様子だった。

「個展は一ヶ月後だったよな」

「七月一日だな」

「その頃はもう暑いだろうなー」

 もはや、個展を開いているときの想像している竹本に天本は――

「気が早いな。でも、あっという間だもんな」

「そうですよ。一ヶ月なんてすぐですよ」

 三人は期待に胸を膨らませていた。竹本の初めての個展に。


「よし、それじゃあ帰るよ」

 玄関で黒い革靴を履きながら天本は言った。

「じゃあ、次に会うのは一ヶ月後の個展だな」

「ああ、一ヶ月後な。それじゃあ、さとみさん失礼します」

「はい、お気を付けて」

 さとみと竹本に見送られ、天本は自宅マンションへと帰った。

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