第31話 1/6

この田舎では誰もこの時間には起きていない。そんな田舎にあるとある家から出火していた。

「家が真っ赤に燃えている。これは助けなければいけないな。」

今日はこの田舎の近くにあるライブハウスでスーツを着て演奏をおこなった。俺の来ているスーツはリバーシブルであり表は普通の黒いスーツであるが、裏側は赤い防火素材で出来ている。こうなったのも自分が東京消防庁にかつて勤めており、この素材でスーツを作りたいと思い自費で買ったからである。ジャケットとズボンともにリバーシブルである。俺は誰か居ないか確かめに、覆面を被って家に侵入する。

「助けに来たぞ!誰かおるか!」

「うううん……何が起こってるんですか?私分からなくて。ひどい匂いがします!」

「火事が起こっとるんや。逃げるぞ。」

「お母さんが、ケーキを買ってくるから家で待っていてね。と言っていたから家で寝ていたの。」

「急いで逃げるぞ。」

「で、でもケーキが。」

彼女の手を引いて俺は家から出た。

「心配するな。ケーキなら今から持ってくるよ。」

「お兄さん、本当に良いの?私、今までこの世の中が怖くてさ。誰も信じられなかったの。色盲でさ。視力はあるのに、モノクロの世界なの。だからみんなと違うからさ。怖くなってね。」

「大丈夫だ。俺はあんたの味方だ。人はみんな違うんだ。俺だって正義感はあるが、先走りすぎてよ。余計な事してみんなの足を引っ張りすぎだと言われた。」

「腹が減ったな。回らない寿司屋でも行こうか。お金は俺が払う。遠慮なく食ってくれ。」


そうして店主のオススメの握りの盛り合わせを頼んで2人で食べた。

「お二人さん、coupleかい。寿司割烹に寿司couple?じゃあ、おまけだ。タダで佐久鯉の煮付けと佐久鯉の握りをプラスしよう。言いたいことはこれに込める。」

そうして店主がご厚意で作ってくれた鯉料理を食べた。

「今日はありがとうございました。ごちそうさまです。」そう言ってお会計を済ませて、外に出た。

「お兄さん、私着いていっていい?実はお母さんは私のこと何とも思っちゃいないんだ。ずっと愛されていなかったっていうか。お姉ちゃんが一人暮らし始めてから私ずっと怖くて。」彼女は泣いていた。きっと色盲のことが母親にとっては欠点で愛することが出来ないのかもしれない。俺は色が分からないだけで、普通だと思うことが出来るが、子を持たぬ身としては甘いのかもしれない。

「俺はあまり裕福ではないが、それでもいいかい?」貧しかったから支えてもらえる事の有難さを知っている。俺は彼女を支える事にした。


「佐久鯉を 喰らいし時に 咲き誇る 我が人生に 咲く恋の花」


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