第19話 8/31
俺は今年で21になる男だ。大学生でありながら、ヒーローショーの衣装を手掛けたりする企業を立ち上げて運営している。今は黄金の竜騎士をデザインしている。これが中々コストがかかるもので、地域の企業にスポンサーになってもらっている。リアルの自己防衛システムの開発にも着手しており、静電気の威力を強めて痺れさせる装置や相手に幻覚を見せて混乱させる仕組みなどを開発した。
俺は自分の頭はいい方だと思っている。格闘も得意だ。
このお世辞にも治安の良い土地とは言えねぇこの街で、チンピラを相手によく喧嘩をしている。とは言え、相手から売られた喧嘩に応じるだけだがな。
今日もまた目の前で、1人の女子高生がストーキングされていた。
「見つけたものをスルーするわけにはいかねぇんだよな。」夏のクソ暑い中スイムウェアのようなものを着用していたので、普段着ている服は脱いだ。アタッシュケースから最大の武器となる手袋と特殊な覆面を取り出した。
「よし。まだあの女子高生は逃げているな。行くぜ。」
黒い生地に青で飾られた覆面野郎は、システムの探索機能によって不良達の居場所を突き止めた。
「おい待てよ!おめぇ、シラモリグループの令嬢なんだろ?」不良達は相変わらずその娘を追い続けている。
「そこまでだ!人を追いかけ回すなんてこの外道が!俺と戦え。」覆面を被っている俺は誰だかわからない為に、警察にもバレることはない。
「んだ?この覆面野郎は。ぶっ殺してやる!死にさらせやぁ!」
威勢のいい不良達だ。でもすぐに後悔させてやる。この手袋は一回握ると攻撃力二倍になる優れものだ。俺の場合は弱い訳では無いのだが、強いとも言いきれないので迅速にフィニッシュさせるための装備である。
3人の不良共が一気にかかってきた。
ジャブを決めて、アッパー。シューズの方も少しは強いので、キックを決めたり。足には何も無いが、腕よりも威力が強いので強める必要も無かったのだ。
「なんちゅう強さだ。くっ!次会ったら覚えてろよ!」
「次もねぇ。俺の顔はお前達には分からないからな。」そう言うと足早に着替えを済ませその女子高生の下に足を運んだ。
「さっきは大丈夫だったか?」
「あの、さっきはありがとうございました。その格好何ですか?」
「そうだなぁ。企業秘密ってことだ。」
「なんですか企業秘密って。」彼女は少し笑った。
「はぁはぁ。お嬢様。ようやく見つかりましたな。」執事らしい男が息を切らして現れた。
「このお方は?」俺は娘に尋ねた。
「あー、こいつはね。執事の鬼藤よ。」
「どうも鬼藤靖友と申します。この度はお嬢様をお守りしていただきありがとうございました。失礼ですがお名前を教えて頂けませんか?」深々と頭を下げる彼はいかにも謙虚な執事といった雰囲気だ。
「桐崎だ。桐崎聖哉。」
「桐崎様。宜しければご馳走させて頂けませんか?ちょっとした御礼です。」
「いえ大したことではございませんよ。これにて失礼します。」
「聖哉君。遠慮しないでね。そう言えば、まだ自己紹介していなかったね。私は、白森零乃。『れの』って呼んでね。さぁ、行きましょ!」
半ば強引に中華料理屋に連れて行かれた。まぁ、ご馳走になるから嫌ではなかったがね。
「いつものAコースを頼もうかな。」零乃は笑顔で注文した。
「Aコースって何?」
「メインは青椒肉絲だよ。」
「いやぁ恥ずかしいことだが、自分はピーマンが嫌いなんだよ。子どもみたいだよなぁ。」
「ピーマンの何処が苦手なの?」
「苦いところだね。本当の苦手だね。」
焼売とか小籠包と共に青椒肉絲が運ばれて来た。嫌いなピーマンを前に少し萎えていた。
でも、「聖哉君。口開けて。あーん。」零乃が箸を持って口に入れた瞬間、ピーマンの苦味は感じなかった。
「どう?美味しい?シラモリフォームのピーマンは。」
今まで僕が嫌いだったピーマンは零乃のおかげで食べることが出来るようになった。野菜を通して、僕の心に「I love you.」が芽生えたのであった。
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